街路樹の花だって当たり前に香るのだ

 北海道は今、新緑の時期だ。
 いや、ちょっと前からそうではあったが、夏?というくらい暑くなったかと思えば、ストーブが必要なくらい急に寒くなったりして、心情的にはそう言いづらかったもので。
 ともかく、街中には緑があふれているし、札幌の背中を支える手稲山を望めば、にっこり微笑んでいる様子が見て取れる。
 気温は上が二十度程度、下が十度程度。寒いのは朝方か夜なので、日中は寒くても十五度くらい。晴れていて、身体を動かしていればとても過ごしやすい。あと、運転をするのも気持ち良い。

 通勤には自転車を使っている。
 晴れた日の午前七時過ぎ。少しだけ肌寒い空気は清廉で、近くの川からはさらりと水の匂いも感じられ、とても気持ちが良い。
 川は季節を感じられる。雪解け水で勢いが増している春。光を反射する川面が涼を運んでくる夏。せせらぎに落葉が混じる秋。寒風に凍り、雪に閉ざされる冬。人の営みの傍で折々の風情を届けてくれる。
 なんて、常日頃思っているわけではないが、頑張って言語化するとこんな感じ。
 生身をさらして、行き帰りで川を渡る生活が、個人的には贅沢だ。

 最近、その仕事帰りで川を渡るとき、とても良い匂いがしている。
 そういえばこの匂いが好きだったと、はっと思うのだが、その次には決まって「何の匂いだったっけ」と考えてしまう。
 爽やかで甘く、すっとして、嗅ぎ飽きるようなうるささはなく、上等の蜜を思わせる匂い、とでも言えば良いか。


答えはこの中に


 早々に答えを言ってしまえば、それはニセアカシアの花の匂いだ。朝よりも夕方に良く香っている。
 思い出して、そうだそうだと首肯するものの、はて、なんで忘れてしまうのだろう。札幌の街路に、ニセアカシアは良く生えているのに。

 ……なるほど。その、街路であることが問題なのかもしれない。

 仕事上、街路樹の剪定や伐採も良く行っている。剪定の時期は限られているが、伐採や伐根はいつあってもおかしくない。背の高いもの、幹の太いもの、樹齢を重ねているものから若いものまで、種々とりどり。
 例えばプラタナスは、花粉なのか木の成分なのか、切っていると鼻水とのどの痛みが襲ってくる。だからマスクが必須。
 例えばマツ類は、切り口から松脂が出るので服はべたべたになるし、剪定後はハサミのヤニ取りをしなければならない。

 そしてニセアカシアは――痛い。

 ニセアカシアの枝にはトゲが生えているのだ。葉が茂っている時期にはわかりづらいが、冬にじっくり見ると良くわかる。基本は等間隔に並び、たまにびっくりするほど大きなトゲもあったりする。だからニセアカシアを切るときは、厚い皮手袋をしなければならない。それでも服の上から刺さったり、顔にあたったり。気が付けば皮膚にトゲの先が残っていることもある。扱う樹木の中ではだいぶ痛くて面倒くさい部類の樹種。
 そのイメージ強いから、その芳しい匂いとニセアカシアが結びつかないのかなあと、つらつらと考えた。


 ニセアカシアの花の時期は、大体五月から六月中。
 朝夕のひと時を楽しみつつ、来年はもうかの匂いの元を忘れないようにしたい。

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