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私のパンツは

夫のパンツが大きい。
いや、大きくなっている。

窓の外がネズミの大群に覆われて、今日は彼らの生暖かい息で窒息してしまいそうだというのに、夫のパンツが大きい。
洗濯物が富士山になって、噴火して脱衣所から出てきそうだったので、せめて下着だけでも部屋干ししようとしていたときに気がついた。

夫のパンツが元から大きいわけではない。ゴムが伸びて、小花柄のパンツの首がビロビロになっているのだ。最近お風呂上がりに、チンピラのように出てくるのはこれが理由だったか。ずり落ちないように気をつけて歩いていたようである。

他のパンツも見てみる。伸びまくっているのはこれだけだ。素材のせいか、これだけ好んで履いているのか。
夫のパンツを洗濯バサミに滑り込ませたら、隣に私のパンツもつる下げる。

このパンツは中学校を卒業しても、社会人になって保険を売りつけられても、うっかりラブホに履いていってしまっても私の元を離れない。最初から真っ黒のパンツ。ビロビロのパンツ。レース部分からは白いゴムがチロチロ出てしまっている、可愛いパンツ。

もう彼女の元の姿を思い出せない。でも、ずっと私のお尻に寄り添ってくれる。きつくもなく、夫のようにガニ股歩きをしなくてもずり落ちない。なんて素晴らしいパンツ。


使い古したパンツを見ていたら、最近下着なんて買っていないことに気づく。新しい男ができるたびに、新しい下着を準備していた頃が懐かしい。錦糸卵のような淡い色の下着が好きだった。この真っ黒パンツは全く勝負しないとき用のパンツだった。

引き出しを開けて、奥の方から新しそうな下着を取り出してみる。夫がまだ夫ではなかった頃に買った、レモンカラーでひっそりと白の糸で縫われたレースが主張する上下セット。昔はカナリアのようでありたかったのかもしれない。

洗濯バサミから先ほど吊るしたパンツをブチっととって、カナリアのお尻にあててみる。
なんと、カナリアのお尻の倍くらいはありそうだ。カナリアがこのサイズなら、もはやバター餅だ。

なんてこった!
ぶん投げると、畳の上にカナリアと灰になったパンツが転がった。
私も畳の上で笑い転げる。
それはそれは、いい履き心地のはずである。パンツも私のお尻と一緒に成長していたのだから。

このまま2人で、一緒に成長しようね。

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