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第3回特許の鉄人の舞台裏

2023年7月18日に開催された第3回特許の鉄人、おかげさまで大盛況となりました。現地観戦、オンライン観戦いただいた皆様、ありがとうございました。運営メンバーの一人として今回のイベントを振り返ってみたいと思います。


選手のマッチングが難しい!

知財塾の上池さんからお声がけいただいたのが今年の春頃で本格的に準備が始まったのが4月でした。今回は自分のマンパワー的な問題もあり(暇そうにみえるけど経営弁理士になってそこそこ忙しいんですよ)、運営は知財塾に全面的にお願いすることになりました。はじめにいつ開催するかという話になり、8月にはすごい知財EXPO、9月には特許情報フェアがあるということで大型イベントを避けるなら開催は7月か10月になりますが、10月だとだいぶ先になってしまい間延びしてしまうこと、できればすごい知財EXPOの前にやってEXPOの宣伝にもつなげたいとのことから7月開催となりました。第1回が1月準備開始で6月開催、第2回が7月準備開始で翌年1月開催であったことを考えると、準備期間は実質約3ヶ月と過去最短でしたが、知財塾の組織運営力が優れていたことによりこれだけの短期間にもかかわらず無事に開催にこぎつけることができたのは非常に良かったかと思います(今回はslackで連絡を取っていましたが、第1回、第2回はTwitterのグループDMで連絡を取っていたのですよ。Twitterが今のように不安定だったら連絡不能になるところでした)。
出場選手ですが、田村さんからは第2回終了時に次回は選手として出場したいと連絡をいただいており、谷さんは独立直後ということもあり知名度UPにつなげればとお声がけさせていただき、まず2名が確定しました。その後に知財塾よりTwitter上で公募させていただきましたが、佐竹さん、綾木さんにすぐに手を挙げていただき4人の選手が早い時期に決まったのは僥倖でした。
悩んだのが選手のマッチングでして、それぞれ得意な技術分野は
谷さん 機械、ソフトウエア
田村さん 化学、ソフトウエア
佐竹さん ソフトウエア
綾木さん ソフトウエア
と4選手ともソフトウエアに偏っていたのですが、2試合ともソフトウエアにすると発明品の多様さが失われてしまいイベントがつまらなくなってしまうので谷さんvs田村さん(構造物)、佐竹さんvs綾木さん(ソフトウエア)というマッチングにさせていただきました。田村さんは得意分野ではないテーマとなってしまいちょびっとばかり申し訳なかったですね。

幻の発明品

選手が決まったらつぎは出題としての発明品探しです。第1試合の薪割り機(キンドリングクラッカー)は、ちょうど知財実務オンライン第90回のアールシーコア社の勝間さん回をやっていたときに、同社がWIPO (世界知的所有権機関)の知財活用事例データベース「IP Advantage」に掲載されたと紹介されていた場面でWIPOのサイトに13歳のニュージーランドの少女が薪割り機を発明したと紹介されていると知り、構造物の出題品はこれだと思いました。当初の予定では勝間さんが壇上で薪割りをした後に、選手にも薪割りを体験してもらってクレーム作成時間を削る予定でしたが、お二人ともド緊張で手が震えていて薪割りどころではなさそうだったので薪割り体験はなしということになりました。薪割り楽しんで欲しかったなあ。
ソフトウエアの方の発明品ですが、テーマが「妄想未来発明対決」ということもあり最初から知財図鑑さんの妄想プロジェクトから取り上げようと考えていました。妄想プロジェクトの中で第1候補して考えていたのが「拡張現実と仮想現実を結ぶ音声AR空間のオーディオメタバース」でした。「オーディオメタバース」とは、拡張現実と仮想現実を結び付け、いつでも誰もが交流可能な音声AR空間を形成する技術のことでして、これをお題にしたら選手の方も苦悩するだろうなあとワクワクしながら知財図鑑さんと話を進めていましたが、諸事情によりこのお題はお蔵入りとなりオーディオメタバースと同じくらい未来発明として魅力的な脳波買取センターがお題となりました。
試合中に発明品の動画を上映させていただきましたが、当初計画ではあの大型筐体を会場に持ち込んで実際に選手の脳波を測ってド緊張の選手の脳波絵画を現場でEC販売する予定でしたが、筐体を会場に持ち込むのに数十万円かかるということで断念しました。

ビジネス視点vs技術視点

今回の2試合のお題設定は自分でも難易度が高いと思っていましたが、4名の選手の皆様には見事に抽象的なお題を素晴らしいクレームにしていただきました。4名の選手への信頼があったからこそ、どんなに難しいお題でも応えてくれるだろうという思いがありました。
試合ルールでは審査員や観客投票のジャッジのポイントとして、
・発明のポイントを的確に抑えてしっかりと文章にできているか 
・従来技術との差異を明確にできているか
・実際のビジネスに役立つクレームになっているか
の3つを挙げましたが、4名の選手とも1つ目と2つ目のポイントはほぼ満点でありそこで差はつかなかったと思います。やはり3点目のビジネス視点が2試合とも勝敗を分けたという印象があり、第1試合では審査員の木本さんの田村さんへの質問でビジネス視点から最後に谷さんから田村さんい投票先を変えたこと、第2試合は佐竹さんがビジネス視点でのクレームを作成したのに対し綾木さんが技術視点でクレームを作成しましたが押谷さん、松本さんの両審査員がビジネス視点から佐竹さんに票を入れたのがそのまま勝敗に直結した感じでした。特に第2試合では佐竹さん、押谷さん、松本さんがそれぞれ経営弁理士ということもありクライアントのカウンターパートが経営者になることが多いためビジネス視点で物事を考えていた部分があるかもしれません。
ただ、私としては綾木さんが発明プレゼンターの荻野さんに積極的に根掘り葉掘り発明ヒアリングを行っていたのに大きな共感を持ちました。確か残り12分くらいまで数分間にわたり技術的なことを聞き出そうとしていましたが、今回の2試合において発明ヒアリングを一番積極的に行ったのが綾木さんであり、運営側としてはこの部分で盛り上がったのがとても良かったです。

従来の勝利の方程式が崩れる

このイベントでは3分間のプレゼンタイムが観客や審査員へのアピールにおいて非常に重要であり、後攻のプレゼンは先攻のプレゼンの話を聞いた上で相手のクレームよりも自分のクレームが優れていることをアピールできるため後攻が圧倒的に有利であると思っていました。そのため先にクレームを書き終えた方が先攻後攻を選べるとうルールにしており、このルール設定は戦略性が問われるので自分でもなかなか良いレギュレーションだと考えています。
このようなルールでは、できるだけクレームを早く書き上げ、残り時間をたっぷり残した上で後攻を選び、相手の選手が残り時間でクレームを書いている間にプレゼンの内容を考えてどう優位性をアピールするかを検討するのが勝利の方程式だと試合前は考えていました。おそらく第1試合の谷さんも同じ方針だったかと思います。
しかし実際は残り時間を多く残して先に終わらせてしまうと、その後は時間終了まで観客の注目は相手の選手にいってしまい、残り数分で制限時間に追われて必死になってクレームを書き上げるのに観客が共感してしまうというのがあったかと思います。クレームの内容が優劣つけがたいものであれば、観客はどうしても最後まで頑張っているほうに同情してしまうもの。第1試合の田村さん、第2試合の佐竹さんに対して観客はカウントダウンが迫るなか何とか最後まで頑張ってクレームを書き終わらせてほしいと心の中で応援していたかもしれません。

拮抗した結果になってよかった

イベントの性質上、どうしても勝者と敗者が出てしまいますが、毎回イベントで申し上げているように決して能力の優劣をつけるものではなく、クレームの好みなんて千差万別なので負けても決して恥ずかしいことではないということは力説したいと思います。この無茶振りイベントに選手として出場するということだけで素晴らしく大いに称えたいと思います。
毎試合の結果発表前、選手は勝利を願い、観客はどちらが勝つか興味津々ですが、私は壇上で一人「拮抗した結果が出る」ことを祈っています。 大差がついたら、それは選手のマッチングやお題選定を含めて設定にどこか誤りがあったからだと考えています。
今回は2試合とも観客票はほぼ同数に割れて拮抗した結果になってほっとしています。やはり僅差のほうが会場も盛り上がりますし。実際に、先に述べたように「発明のポイントを的確に抑えてしっかりと文章にできているか 」「従来技術との差異を明確にできているか」は両選手とも甲乙つけがたく、「実際のビジネスに役立つクレームになっているか」が勝敗の差を分けただけであり、2試合ともまさに紙一重の差だったと思います。

会場で酒を飲みたい!

第1回から第3回まで、試合時間のほとんどは壇上で発明プレゼンターのそばにいるという役割だったので、過去にイベント中でアルコール類は一切飲んでいないんですよ。このイベントの趣旨が「選手が短い制限時間の中でもがき苦しむのを酒を飲みながら観賞する」ことにあるとすれば、私が唯一イベントの趣旨に沿って楽しめていないので、次回は一観客になって観客席から酒を飲みながら楽しみたいところですね。知財塾の上池さんによると第4回も来年夏頃に行うということなので、次回の開催を楽しみにしています。


特許の鉄人のアーカイブは下記のツイキャスよりオンライン配信チケットを購入することによって8/1(火)23:59まで視聴可能だそうです。もしまだご覧になっていない方や会場で観戦したが見直したいという方はぜひチケットの購入をお願いします。


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