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うつは突然に②

 前回の記事では、ヤツがやってきたところまで書いた。不眠症状が半年以上続き、興味関心がどんどんなくなっていった数ヵ月。心のダムが決壊寸前という状態。突発性難聴は再発の可能性もある病気なので、もしかしたら耳に来るかもとは思っていた。ヤツは想像以上に狡猾だった。

◆適応障害という姿で現れた
 ある朝目が覚めると、身体が動かない。頭の中では起きないといけないと思っている。でも、身体は鉛のように重く動かない。不安感がどんどん心の中で押し寄せて、とうとうダムが限界を迎えた。実家暮らしなので、自室の近くを通りがかった母に何とか声をかけた。

僕「ちょっと無理かもしれない…」
母「もう無理しなくていい。(会社)辞めてもいい。」

 這う這うの体で上司に休むメールをした。溜まったものを放流するために、彼女に助けてもらって外出し気分転換を図った。恥ずかしい話だけど、駅前で涙が止まらなくなってしまい動けなくなる。上司に、真実を話し少しの間休ませてもらうことになった。心療内科に駆け込み、ヤツの正体を告げられる。

 「うつとまでは行きませんが、『適応障害』です」

◆試合開始のゴング

適応障害は、ある特定の状況や出来事が、その人にとってとてもつらく耐えがたく感じられ、そのために気分や行動面に症状が現れるものです。たとえば憂うつな気分や不安感が強くなるため、涙もろくなったり、過剰に心配したり、神経が過敏になったりします。また、無断欠席や無謀な運転、喧嘩、物を壊すなどの行動面の症状がみられることもあります。
「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html

 医師がターゲットにしたのは「環境」だった。部署異動などの環境変更を進言してくださり、薬で不眠症状と抑うつ症状を改善することになった。先生は正直に教えてくれた。

「われわれ医師は、患者さんにコートをかけてあげることしかできません。患者さんが置かれている極寒の状況を和らげることしかできないのです。まずは良く食べ、良く寝られるようにしましょう。体力をつけながら環境を変えれば変化が出てくるでしょう」

 正式な療養休暇が始まった。上司や先輩方に恵まれていたので、スムーズに休暇に入ることができた。

◆一眼レフとの出会い
 最初の一週間は本当に体が動かなかった。朝起きて、天井を眺めていたら昼前。ようやく活動を開始しても、おそろしくダルい。ソファに座ったが最後、もう動けない。

 二週間経って、薬の効き目が表れ始めた。気力を奮い立たせれば散歩くらいなら可能になった。先生からも、適度な運動や外出を勧められた。不安感も安定し始め、少し前向きに考えることができるようになった。

 「アウトドアな趣味がねえな」

 かといって運動は苦手だし、お金もそんなにない。散歩の延長でできるようなものはないかと考えた。大きなことはできないので、スモールステップが重要だ。これは、うつを乗り越えた今でも意識している。

 「一眼レフでも買ってみるか」

 これが僕のカメラ第一歩だった。中古で入門機を購入し、シャッターを切りまくった。ファインダーを覗いている瞬間は無心になれる。モヤモヤしたものから離れられる時間ができたのが良かった。

 「ポートレート撮りたいな」

 カメラを始めたことで、すこし欲が出てきた。欲だって立派な感情であり、好奇心の発露だ。人間を撮りたいけど、被写体がいない。とりあえず勉強がてら写真雑誌を読もう。文章を読むのはきつくて、ほとんど読めなかった。初めて買ったのは「フォトテクニック デジタル」で、声優の小倉唯さんの笑顔が眩しかった。よくよく考えてみると「色」を意識したのが久しぶりだったことに気づく。灰色の世界から、色彩の世界へと引き戻してくれたのがカメラだった。

 そして、体力も回復し環境も変わった。復帰できそうだ。

◆第2R いきなりのダウン
 会社が配慮してくれて、部署異動となった。これで大丈夫だろう。もちろん薬は飲みながらだけれど。だけどヤツはじっと潜んでいた。心のダムの底で…。ジュラシックワールド的に言えば、モササウルスみたいなやつなのだ。そっと現われてなんでも食ってしまう。職場とプライベートでのモヤモヤは無くなったわけではなく、復帰して数ヵ月でモササウルスが暴れだした。

 もう無理だ…。

 補修されたはずのダムを軽々と破壊したモササウルスは、悠々と僕を抑うつという名の胃袋に飲み込んだ。

 うつは突然に②はここで筆を置く。明るく書きたいけれど、どうやってもこの辺りは重たい空気になってしまう。申し訳ない。この記事でも、何か一つだけ言いたいと思っているが、なかなか難しい。後付け論になってしまうけど…。

「モヤモヤしたものを何かに置き換えてみる・名付けてみる」

 今になって、あのモヤモヤはモササウルスみたいなものだったんだと気づいた。飼いならすことができたので「モサちゃん」なんて呼んでいる。正体不明な間は対処も難しい。正体をハッキリさせるのは骨が折れるけど、自分を見つめるという意味でも日常から意識しておくと良いのではないか。



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