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『アサッテの人』読書感想。


失踪した叔父がよく発していた“ポンパ““チリパッパ“などの謎の言葉と失踪の理由を探る甥である作者の草稿、日記のコラージュ風小説。

徐々に明らかになっていく叔父の目指していた“アサッテ“という観念。
何者にも囚われない“アサッテの方角“を求める叔父のような人々(閉じたエレベーター内で奇行するチューリップ男など)は社会的に振る舞わなくても良い間隙に異世界への扉を見つけ、それぞれの方法で理想のアサッテを探し続ける。

しかし、叔父は求めれば求めるほど離れていくアサッテの性質(言葉というシステムが間に入る限り、作為の籠城から抜け出すのは不可能である)ことに気づき、袋小路に陥っていく。
ここではないどこかへ行きたい衝動と行けない焦燥にがんじがらめになった叔父の出した結論とは。

《追記》が“ポンパ“に代わる叔父にとっての新しい“アサッテ“ヘのアプローチなのだろう。
身体表現のループで異世界への扉を開く。
土着的アミニズムに着地したということか。

私も意味のない言葉を口走る方だけれど、
それは返事が面倒な時や言い訳が思いつかない時、誤魔化したい時に度々意味のない言葉を発するだけで、それ以上の意味はない。
この小説に登場する叔父はシステムに縛られない居場所探しの起爆剤としてそれを利用しているということ、
同じようなことをしていても全く持って意義の重さが違っているのが面白かった。

AをしているからBという単純な方程式は到底通用しないリアルが浮き彫りになる。
当たり前のことなのに人の習性としてどうして方程式に当てはめたくなる。
悪習だよな。
ちょっと意識して気をつけるようにしよう。

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