『宇宙消失』読書感想。
ある日、突然世界の夜空から星々が消えたーその日から33年後。
ヒルゲマン病院から失踪したローラ捜索を頼まれた探偵ニックは、あと少しという所で〈アンサンブル〉という組織に捕われてしまう。
脳を弄られた彼はこの組織への忠誠モッドを組み込まれ、組織の犬として働くことになる。
更に「アンサンブルへの忠誠モッドを埋め込まれた自分達こそ本当のアンサンブルを達成できる」と妄執する〈カノン〉という組織に加入、ローラ奪取計画を実行することとなる。
ローラの“拡散“し自ら選択した“収縮“に収まる能力(量子力学がよくわからないので、パラレルな数限りない選択肢の中から一つを選び取る能力と捉えて読み進めてます)を訓練で強化し、徐々に能力を高め、本髄へと近づいていく。
数々の危険を乗り越えてようやく出会えたローラの正体とは。。
現代人がスマホを持つような感覚で感情や能力の強弱をつけて操作するモッドを脳内に取りつけて生活する未来人たち。
モッドを使った自分は本当の自分なのかそうではないのか。
思い悩む間もなく、モッドによって無意味と判断された考えは葬り去られていく。
大切な人を失った悲しみでさえも。
その上“拡散““収縮”により未来まで選択できるようになったのなら、人は悲しみの残り香さえ感じられなくなってしまうということか。
その先はどう進化していくのだろう。
もはや思い煩う過去は皆無、今だけを生きるだけの存在になっていくのかも知れない。
全て思い通りにしかならない人生で、人はどう振る舞うようになるのだろうか。
ちんぷんかんぷんな量子力学の中に様々な哲学的問いが散りばめられている。
脳を弄られた私は私なのか。
今の選択とは異なった自分がそのたび消滅しているのか。
“私は誰?“
違った世界線を生きていても共感することは可能なのだろうか。
様々な疑問が湧き立ち、波間に飲まれて消えていく。
かなり骨太なSFなのにただ海を見つめて物思いに耽るようなそんな気持ちにもなれる、心が広がる小説だった。
もちろんおすすめ!
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