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『晴れ女の耳』読書感想。


可愛くて個性的なおばあちゃんがたくさん出てくる短編集。

「イボの神様」
美しい詩のように心現れる一編。
心にほんのりと灯りを灯してくれる。
全ての存在や行為は風に吹かれて消えていき、最期に残るのは祈りの残り香だけ。

「ことほぎの家」
中学時代、ほのかに恋心を抱いていた女性とひょんなことから再開することに。
仕組まれていたことが、自分の意にそうことだったときの、アイスクリームに小蝿が混じっていたときのような大問題ではないのにかなり不愉快な感じが効いてる。

「赤ベベ」
祖母の葬式に田舎に帰った際、昔タヌキに化かされたことがあるという祖母のあにさまと出会う。
本当が皆無であることのリアルを突きつけられるような一編だった。
ハレを受け入れ包み込む優しさに救われる人非人たちにほっこり優しい気持ちになる。

「晴れ女の耳」
絶句する程不幸なのに朗らかで優しい。
こうゆうものにすごく憧れる。
どんな形でも良いからそうゆうものを手に入れたいものだな。

「先生の瞳」
”母親から譲り受けた目”を愛おしそうに洗うシーンが好き。
身体の部品がそれぞれ取り外し可能だったら、もっと慈しめるような気がする。
強烈な自我のもとに所属する身体は、客観的に外から見ることができないので慈しめない。
保身衝動には駆られるけれど、宝物という感じではなく、道具の域を出ない。
瞑想でもしてみれば、自我が融解して、自分の身体を愛しめるようになるのかな。


「サトシおらんか」
この短編集の中で1番ゾッとするお話。
庭先から見えるサルビアとひまわり畑の描写が美しい。

「あやっぺのために」
小さい頃近所でよく見かけた人形をベビーカーに乗せていた女の人を思い出した。
幼心に違和感を感じ、興味本位の視線を投げかけてしまっていたことを今更ながら後悔している。
その頃の私にはその違和感の出どころを想像力で賄える力がなかったのだ。
愛したいという気持ちは人間誰しも持っている物で、補い方は人それぞれ。
隙間を埋める方法が自分とは違うからと言って、差別化する必要はない。
幼い息子たちにこうゆうことを教えるのは難しそうだけど、紆余曲折経験して、学んでいければそれで良いのかな。



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