『海も暮れきる』読書感想。
歴史小説はあまり好きなジャンルではないけれど、
吉村昭だけは別。
俯瞰的視点が超越したリアリティを生み出しており、
良い意味で近所の出来事のように感じられる世界や人物描いてくれているところがとても好き。
熱量がちょうど良い。
(特に好きなのは『間宮林蔵』『破獄』)
この『海を暮れきる』では、俳人・尾崎放哉の後年を描いている。
今まで読んだ吉村昭作品の中で一番感情移入し難い主人公だった。
アル中でプライドばかり高く、人にして貰うのが当然と思っている人物として描かれる尾崎放哉。
周りの人への金銭要求が凄まじく、そうゆう時ばかり下手に出る所も不快感を誘う。
その人物像から浮かび上がってくる“○○中毒“の恐ろしさ。
ループを繰り返すほど視野狭窄になり、
なりふり構わなくなっていくんだろうな。
そこまでハマれるものに今まで巡り会えたことがないので、そういう意味では羨ましいけれど。
拠り所がないのに漲っている自尊心もまた然り。
後半の死期間近の描写が鬼気迫っており、吉村昭節が光っている。
彼自身が結核で死にかけた事があるらしく、その体験が生きているのだろう。
徐々に衰弱し、死が近づいてくる様が異常な程リアル。
捲るページが止められなかった。
浅はかな欲望と独りよがりのハイブリッドが、たった一行程の言葉の連なりによって人の心の琴線に響く神の御業を備えているという運命の悪戯としか思えない史実。
歪んだ勇気を貰える一作だった。
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