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『人生の楽園』都会版その4

 この連載は、テレビ朝日“人生の楽園”のような田舎に憧れながらも、コンビニのある都会でしか生きられないシニアカップルのお話です。

 いよいよ今週末、会社を登記することになりました。そろそろエンジンをかけねば……。すると彼が言いました。

「明日、墓参り行こうよ。気分的にさ」

 とてもいい提案だと思いました。人生の楽園に出発することを私の両親に報告に行かねばなりません。

 お墓は東京都と神奈川県の境目、山のてっぺんにあります。車を持たない私たちは電車とバスを乗り継いでいくしかありません。

 当日はもう桜が散ったというのに寒い日でした。途中で花束とお供え物を買いました。父には日本酒、母にはどら焼き。おはぎじゃなくてごめんね……。

 バスを降りて、巨大な霊園の中を進んで行きます。ここは無宗教の霊園なので、みなさん凝ってること。墓石というよりはアートと呼んだほうがふさわしいものばかりです。

 両親のお墓は山を登りきったところにあります。『風の旅人』と名付けられたエリアで樹木葬と呼ばれています。

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 左側の階段を上ったところに両親は眠っています。お彼岸も過ぎて、人影もありません。

「おとうさーん、おかさあーん、来たよー」

と叫ぶと、なんだか子供の頃に戻ったみたいな気持ちになりました。

 彼は長い時間をかけて合掌しています。

 何を祈ったかわかりませんが、これから2人でスタートする、人生の楽園都会版の報告をしていたのでしょう。

 間もなく会社が出来上がります。スタートしたらもう立ち止まれません。

 私の日課はYouTubeを見ながら身体を動かすこと。楽しいリズムに乗ってノンストップで筋肉を鍛えています。

 心配なのは彼のほう。ダンスに誘っても動こうとはしません。出会った時には割れていた腹筋も、今では妊娠8カ月級の太鼓腹になりました。電車の席を取る時だけは機敏なんですけどね。


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