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60歳で整形しましたが何か? その4

手術までの鮮やかな手順

 番号を呼ばれ、全身ピンク色のナース服をまとった女性の後ろを付いて行きます。狭い廊下の奥は洗面所になっていました。
「ここで洗顔をしてくださいね」
と柔らかいタオルを渡してくれます。洗面台は高級ホテルのように立派で5つ並んでいます。少し離れた洗面台で手術着の人がこれでもかというくらい丁寧に洗顔をしています。ふだんは適当に洗う私もそれを真似て、泡をたくさんつけて丁寧に洗います。タオルで丁寧に拭き取っていると、さきほどの看護師が迎えに来てくれました。目だけの手術なので、手術着に着替える必要はないとのこと。さっきの患者さんはどこを手術するのだろう……と思いつつ、看護師さんの後を付いて行きます。部屋の中に入るとさすがにびびってしまいました。天井から下がるライトは病院の手術室そのものです。
「ドクターがデザインしますのでしばらくお待ちくださいね」
 私は手術台にちょこんと横に腰掛けてドクターの登場を待ちます。

医師の登場から麻酔まで

 手術室を見渡すと壁掛け時計が目に入りました。時刻は手術時間の10時でした。ぴったりの時間にドクターが入って来ました。名前とボードに書いてある手術内容を確認します。ドクターは定規のようなものとペンを持っています。私の目に当てるとペンでマーキングをしていきました。目を開けたり閉じたりしながら何度も慎重にデザインしていきます。ここでドクターはいったん退場。さきほどの明るい看護師がすぐに入って来ました。
「緊張してます? 大丈夫ですよ」
 その一言がとても嬉しい……促されて横になると、看護師は手際よく帽子をかぶせ、目出し帽のような布をかけました。実に無駄のない見事な手順です。そりゃそうです。私は高額な費用を払ったお客様なのですから。
 準備が整うと看護師はイヤモニでドクターを呼びました。看護師は私の腕に針を刺し、着々と準備を進めていきます。すぐにドクターが入って来ました。時計の針は10時20分。さて意識を取り戻した時には何時になっているのでしょうか。
 口元に丸い物体が当てられました。全身麻酔の前の笑気麻酔です。いい匂いがします。股関節の手術の時に体験していたので、わざと大きく深呼吸してみました。すぐに頭がボーッとして来ました。
「麻酔入れていきますね」
という看護師の声を最後に私は夢の中に落ちて行きました。目覚めた時には、くっきり二重が手に入るのです。何も怖くはありませんでした。

ついに二重を手に入れる

 遠くから男女の楽しそうな会話が聞こえて来ます。だんだんはっきりと聞こえてくるようになりました。
「あいつも〇〇大だろ。ろくなヤツいないな、〇〇大って」
「あはははは」
 そこでドクターは私が目覚めたことに気が付いたようです。急に雑談をやめると、
「痛くありませんか? もうすぐ終わりますからね」
 と神妙な声で言いました。まぶたを針と糸で縫われている感覚はありましたが痛みはまったくありませんでした。まもなく手術は終わり、ドクターが出て行きました。
 時計の針は午後1時半を回っていて驚きました。ずっと私のそばで手術をしていたのか、他を回っていたのか全身麻酔をされていた私には謎です。
 看護師は切り取ったまぶたと脂肪を見せてくれました。それと昔の埋没法の黒い糸も。左右一本ずつしか入っていなかったとのことでした。これでゴロゴロとして違和感から逃れられます。
「はい、鏡どうぞ。まだ腫れていますけど成功ですよ」
ドキドキしながら手鏡を受け取ります。
縫ったばかりの傷跡はグロいものの、大きな幅の二重になっていました。受付の段階で支払いは終了しているので、このままエレベーターに向かってよいとのこと。サングラスをかけて混雑している待合室を横切ってエレペーターに向かいました。

術後すぐ。かなり腫れています。もともとの奥二重のラインが残るのは仕方ありません。

その5へつづく



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笠松 ゆみ
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