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ドラえもんのアンソロジー

ドラえもんの単行本はてんとう虫コミックス版で45冊出ており、作者が存命中に刊行していたドラえもんの作品集の中では「作者本人が収録する作品を選んだ」という、いわば傑作選の意味合いを持っている。そのためこれだけ読めばドラえもんの一番おいしいところを味わえる仕様となっているわけだ。未来の国からやってきたねこ型ロボットがポケットの中に入っている便利な道具でのび太という少年を助けたり助けなかったり、という基本プロットは1巻から最終巻まで共通しているのだが、『ドラえもん』にはそれ以外の様々なお話、キャラクター、冒険がつめこまれており、ホラー、爆笑、ほのぼの、感動とジャンルも色々。小学館からはジャンルを決めて選んだ傑作選がすでに刊行されていて、[ドキドキ冒険編][恐ろし怖~い編][胸キュン感動編]などなどいろいろあって好きなお話を探しやすい。要は『ドラえもん』って多角的に楽しめる漫画なのだ。
じゃあ自分なら『ドラえもん』でアンソロジーを編むとして、どんなテーマで、どんなお話を入れたアンソロジーにするだろう。いろんなお話がある中で、どうやって作品を選べばいいのだろう。そんなこんなで今回は前回の記事にちなんで自分なりにテーマを決めて、ドラえもんのアンソロジーを作ってみようと思う。
選んだ対象のコミックスは「てんとう虫コミックス版」。また、収録作品の数は第1巻の収録数が16作品だったことからだいたいそれに近い数字になるようにしてみた。あとは自由。自分が入れたい作品をほいほい入れてみたという体裁。ではではどうぞ。

骨川家&剛田家の人々

① おはなしバッジ(3巻)
② ソノウソホント(4巻)
③ 空とぶさかな(7巻)
④ ラジコン大海戦(14巻)
⑤ オールシーズンバッチ(16巻)
⑥ ドライブはそうじ機に乗って(18巻)
⑦ 海に入らず海底を散歩する方法(19巻)
⑧ しつけキャンディー(22巻)
⑨ 大ピンチ!スネ夫の答案(28巻)
⑩ ペタンコアイロン(29巻)
⑪ 超リアル・ジオラマ作戦(32巻)
⑫ ジャイアン反省・のび太はめいわく(36巻)
⑬ スネ夫は理想のお兄さん(40巻)

コンセプトは「脇役の魅力」。初めは「スネ夫のいとこであるスネ吉が登場する話を集めたアンソロジー」を考えたのだけど、探すと案外少ないことがわかったのでそれ以外にもスネ夫の弟やジャイアンのいとこにも出演してもらうことにした。ただしスネ夫のママやジャイアンのママは除いている(何故かというと出演回数が多すぎて独自性が失われるから)。つまりこのアンソロジーは骨川家と剛田家の「名脇役たち」に的をしぼったアンソロジーなのだ。

「おはなしバッジ」にはジャイアンのおばさんが登場。飼い犬が食べていたきびだんごを「あたしにも、一つちょうだい。」と笑顔でいってくる度胸の強さ(?)と、のび太の失礼な発言に対してためらいなく首を締め上げる姿は間違いなくジャイアンと同じの血が流れていることを感じさせます。

「ソノウソホント」にはめずらしくジャイアンのお父さんが登場。のび太のパパが自分より強いという話を聞き、「ようし、のび太くんのおやじさんに力くらべをもうしこむぞ。」とすぐに動き出す血気盛んな姿は剛田家のそれ。

「空とぶさかな」では一コマだけだが船長をしているスネ夫のおじさんが登場。見た目はスネ夫を大人にしてひげを生やし、船長の服を着させた感じ。甥の頼みととはいえ海の中によくわからない餌を適当にばらまくのはいかがなものかと。

名作「ラジコン大海戦」はスネ吉兄さんの初登場回。スネ夫のいとこにしてラジコン・プラモデル・アニメ・アウトドア・ジオラマとあらゆる趣味に精通してるキャラクター。個人的に大好き。ドラえもんを「ふしぎな道具を使うロボット」と認識しながら自身のオタク趣味を発揮するために果敢に挑んでくる姿勢がかっこよすぎて痺れます。水中で攻撃するため小型の魚雷を持っていたりとあらゆる準備を行っている様子も流石といったところ。私もあんな従兄弟がほしい(あくまで傘籤個人の意見です)。

「オールシーズンバッチ」ではスネ夫のパパが登場し、家族そろってお花見しています。しかし顔の似た親子ですね。

「ドライブはそうじ機に乗って」「海に入らず海底を散歩する方法」でもスネ吉兄さんが登場。スーパーカーを買ったり、自家用らしきボートに乗っていたりと、遊び方がリッチ。

「しつけキャンディー」で登場するのは93歳になるスネ夫のおばあちゃん。嘘をつくとエンマさまに舌をぬかれるという話を子どもたちに説き、スネ夫の非行をしっかりとたしなめるという、骨川家の人にしてはまともな教育方針のしっかりしたおばあちゃんです。

「大ピンチ!スネ夫の答案」はスネ夫のママ以外レアな親族は登場しないのですが好きな話なので収録したい。この話ではめずらしくのび太とジャイアンが手を組んでおり、スネ夫の答案が何点だったのかを暴こうとします。百点をとったスネ夫としてはむしろふたりに点数を教えたいという心境があり、そのちぐはぐなコントみたいな状態が笑いを誘います。オチのすさまじさもふくめてスネ夫メインの話としては殿堂入りのエピソード。

「ペタンコアイロン」に登場するのはジャイアンのいとこ。トラック代をけちって小学生にひっこしの手伝いを強要するという時点でどうかと思うが、断ろうとすると「そんなら、たべたケーキを返せ。」と怒気をはらんでせまってくる様子は完全に剛田家のそれ。あげくにデートの時間になると出かけてしまうという……ナイスジャイアニズム

「超リアル・ジオラマ作戦」では我らがスネ吉兄さんのジオラマに関する熱いレクチャーが聞ける。「情けない・・・これでもジオラマかね」「距離感もゼロ。遠近法をもっと利用しろ」「撮影においては巨大ロボの量感を出す。その一つの方法は、対照的に小さなものを写し込むこと」とマニアックな知識が次々と繰り出される。藤子先生自身ジオラマを趣味としていたので、ここでのレクチャーは先生自身の言葉として傾聴しよう

「ジャイアン反省・のび太はめいわく」で登場するのはジャイアンのおじさん。柔道十段という相当な腕の持ち主だが、「タケシくん。柔道はケンカのための技術じゃないよ。」と至極真っ当なことを教え諭している。しかし、のび太がいじめられるのを待つととんちんかんなことを言い出すあたり、ジャイアンはおじさんが言いたいことを何もわかっていない

「スネ夫は理想のお兄さん」ではスネ夫の弟であるスネツグが登場。意外と知られていない事実だがスネ夫には弟がおり、ニューヨークに住むおじのもとで養子として暮らしている。このお話ではそんなスネツグが久々に日本へ帰ってきたのでスネ夫が兄らしいところを見せたいとドラえもんに泣きついてくる話なのだが、てんとう虫コミックスだけ読んでいても他の話では一切登場しないキャラのため読者としては面食らう。ちなみにスネツグは兄のことを素直に信頼している良い子です。

精選したら13作品になったけれど、もっとしっかり探せば他の家族が出てくる話もありそうな気がする。でもとりあえずこの作品群を読めば骨川家と剛田家の人々がどんな気性で、どんな活躍をしてきたのかわかり、その魅力に気づけるんじゃないかな。


恋する男たち

続いて選んだテーマは「恋愛」。ドラえもんの道具には恋を成就させる道具や、誰かと仲良くなるための道具が数多くあり、そういった場合エピソードとしても恋愛に関連した話になる場合が多い。特にのび太はしずかちゃんのことが大好きなのでしょっちゅう将来のことを気にしたり、出来杉くんとの仲に嫉妬したりしていて、そのたびにドラえもんのことを振り回している。1巻につき1話くらいはそういうエピソードがあるくらいで、巻数が進むごとにドラえもんの反応がたんぱくになっていく様子を楽しむのも一興。
で、このアンソロジーではあえてしずかちゃん以外の誰かにのび太他メインとなるジャイアン、スネ夫、ドラえもんらが恋に落ちている話をセレクトしてみた。結果的に数はさほど多くなかったので、のび太は案外一途なんだなあと分かった次第。ちなみに6巻収録の「赤いくつの女の子」は恋愛とはまた違うエモーショナルを描いたお話だと思ったのでアンソロジー収録は見送った。

① ああ、好き、好き、好き!(3巻)
② 好きでたまらニャい(7巻)
③ ガールフレンドカタログ(18巻)
④ 虹谷ユメ子さん(24巻)
⑤ 恋するドラえもん(27巻)
⑥ グンニャリジャイアン(29巻)
⑦ 友だちの輪(38巻)
⑧ 恋するジャイアン(44巻)

「ああ、好き、好き、好き!」は、近ごろ見かけるようになったヘアバンドを付けたきれいな女の子と友だちになりたいとのび太がドラえもんにすがりつくところから始まるお話。「キューピッドのや」という道具を使って強制的に仲良くなるのはほんとに嬉しいもんかなあとは思うものの、その過程におけるすちゃらかな展開が笑える。また、この話では学校の先生が弓矢を手に入れて一人遊びするというレアな絵面も見られる。

「好きでたまらニャい」で恋をしているのはドラえもん。好きなネコができたけれど自信喪失してしまいへにゃへにゃのポンコツ状態になってしまったドラえもん。ヤスリで自分の体を研ぎ始めたり、ハンマーで自分の頭をたたき始めたり、言われてもいないことを想像して勝手に自己嫌悪に陥っている。ある意味で多彩なポンコツドラを楽しむ回ともいえるだろう。ひみつ道具が一切出てこないのも特徴で、「ドラえもんを励ますのび太」という、いつもと役割が入れ替わっているふたりを見られる珍しい回でもある。

「ガールフレンドカタログ」は未来で出会うことになるしずかちゃん以外の女の子のことが知りたくなったのび太が事前にその子たちに会いに行くというお話。となり町の学校まで広まっているのび太のダメな記録(遅刻記録、立たされ記録)もさることながら、「頭も悪い、顔も悪い、スポーツもなんにもできない。よりごのみできる身分か。」というジャイアン&スネ夫の台詞が痛烈。ちなみにカタログの中には『エスパー魔美』の魔美も地味に入っていたりする。

「虹谷ユメ子さん」はこちらものび太がしずかちゃん以外の子とガールフレンドになろうと目論む回。「もはん手紙ペン」を使い文通するというのは今でいうチャットGPTに文章を考えてもらう感覚に近いのかもしれませんね。女の子になりすました上、「返事先どりポスト」でさっさと返事を知るという裏技を駆使しているあたりがのび太らしい。飼い猫のドーラ呼ばわりされたドラえもんの怒る表情と、のび太のあわただしさに呆れて猫のようにゴロゴロ言いながら丸くなるドラえもんが可愛いので読む際はそこに注目しよう。

「恋するドラえもん」。ドラえもんが恋に落ちる話は結構多い。割と惚れっぽいところがあることはのび太も承知しているので「ははあ、すきなネコの女の子でもできたか?」と冒頭で即座に言い当ててられている。ライバルとなる黒猫が出てきたときの茫然自失ぷりと取り乱しようがなんとも見どころ。なんせねずみ駆除の際に持ち出した「地球はかいばくだん」までポケットから出しているのだから相当だ(というか一介のお世話ロボットにそんなもの持たせるな)。比べてみるとのび太は相手と仲良くなりたい場合、結構積極的に動くし、ドラえもんはかなり奥手になってしまう傾向があるようだ。

「グンニャリジャイアン」で描かれるのはジャイアンの恋。声をかける勇気が出なくてグンニャリしちゃってるジャイアンの様子が普段と違って面白いのだが、「あの子とおれを友だちにしろ!」と脅迫まがいに言ってくるあたりはいつものジャイアン。「成功したやつは心の友だ。失敗したやつはただではすまねえぞ!」と心の友の安売りもしており、上手くいかない未来ばかりが見える。ここで注目したいのはスネ夫の口の上手さや機転の利かせ方で、ドラえもん&のび太の妨害により失敗はしてるものの、おそらくあのまま行けばジャイアンと女の子の仲を取り持つことに成功していたんじゃないかと思われる。今回ザっと全巻読み返したところスネ夫が恋愛で悩んでいる様子は特に見あたらなかったし、彼の世渡り上手な性格は恋愛においても発揮されているのかもしれない。

「友だちの輪」は神成さんのところへ夏休み中遊びに来てるかわいい女の子とのび太・スネ夫・ジャイアンがそれぞれ先んじて仲良くなろうとする話。女の子(ミズエさん)ではなく神成さん本人にのび太が好かれる展開がコミカルで笑えます。オチはそっち行くか~という意外性と納得感があって良い。

「恋するジャイアン」は再びジャイアンの恋愛話。公園で見かけた女の子に一目惚れしたジャイアンはスネ夫とのび太に相談を持ち掛けます。犬を飼っているという共通点を利用して女の子に話しかけたときの会話が特に好き。大ベンジーと小ベンジーって。
結局上手くはいかなかったものの、ここでもスネ夫のトークスキルが発揮されており、コミュニケーション能力における卒の無さがわかる。

他にもパパやママの仲を取り持つ話があったり、ジャイ子の恋を応援する話があったりするので、それらの話を集成するともっと厚みのあるアンソロジーが出来そうな気がする。

テーマを決めて全巻読み返してみるとやっぱりドラえもんって色んな種類のお話を収録した漫画だなあと実感します。ホームメイロやパンドラの箱、ゴルゴンの首といった恐怖体験に重きを置いた作品にも名作がたくさんありますし、自分が神様になっていちから地球型の惑星を作るという話も案外たくさんある。また、のび太はあらゆる生き物(および自然そのもの)から愛される傾向にあるので、それだけでもひとつ傑作選ができそうだ。ジャイアンリサイタル、ジャイアンシチュー、ジャイアンズの特訓へ強制参加といった「ジャイアン横暴だよ」シリーズも組めそう。他にもバーッと読み返していて気づいたのが人形やぬいぐるみにまつわる話が割とあるということ。これはたぶん娘さんが三人いた藤子先生の経験が入ってるんだろうなあ。

というわけで、ドラえもんのアンソロジーを妄想するという記事でした。他にも4つくらいテーマを決めて作品を選出してみたけど今回はここまで。また気が向いたら「私が考えたアンソロジー」シリーズやってみようと思います。



相互であるたけうちさんがこの記事に対する感想や補足を書いてくれました!持つべきものはドラえもん仲間ですね。ありがたいありがたい……。「大ピンチ!スネ夫の答案」はほんと最高の一編なのでみんなに読んでもらいたいなあ。

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