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妙に後を引く児童文学—『年をとったワニの話 ジョヴォー氏とルノー君のお話集1』

ここ数年は、なるべくモノは増やさないにしてきていたのだけれども、あるときふと、自宅の本棚が、自分だけのちょっとした図書館のようだったら、あるいは、趣味のいいカフェの一角にある本棚みたいだったら、悪くない、むしろ素敵かも、という思いがおりてた。
繰り返し読みたい本は、もっと多く手元に置いておいてもいいのかもしれない。

というのを、近く引っ越しを控えているのにまた本を買ってしまった言い訳にしておこう。
前にも書いた古本屋さんで、また、目が合ってしまったのだ。
私は本を読む時間よりも、読みたい本を探している時間の方が好きなのかもしれないなあ。

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『年をとったワニの話 ジョヴォー氏とルノー君のお話集1』
レオポルド・ジョーヴォー 作 
出口祐宏 訳

タイトルも表紙カバーも挿絵も、迷いなく私を魅了してくれて、今日はこれを買うためにここにきたんだな、と思った。
「ショヴォー氏とルノー君のお話集」のシリーズは、作者のレオポルド・ジョヴォー氏が息子のルノー君に語ったお話なのだそう。挿絵も作者が描いている。
作者の作品を知るのも読むのもこれが初めてだ。

『ノコギリザメとトンカチザメの話』、『メンドリとアヒルの話』、『年をとったワニの話』、『おとなしいカメの話』の4編がおさめられた短編集。

『ノコギリザメとトンカチザメの話』なんて、タイトルだけでも、いかにも面白そう。シュールで痛快で、最後は心あたたまる動物たちのお話をイメージして読み始めたが、想像もしていなかった展開を繰り広げていた。
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この、どこか愛嬌のある姿をしたノコギリザメとトンカチザメ。こう見えて実は、

二ひきのサメは、いつも、心にやましいところがあるものだから、絶対に、二ひき、いちどきにはねむらない。

なぜなら

「とても根性のわるい、悪党のサメども」

で、

「敵もいっぱいいた」

からだ。
ゲーム感覚で、なかなかの残忍な行動をとり続ける。

簡単にいうと、このサメどもに対する、容赦ない報復で話が終わるのだが、「だから悪事を働いてはいけませんよ」という教訓のお話、というわけでもない。ユーモアはありながらも、淡々とコトが語られて終わり、なのだ。

子供に聞かせるには残酷なシーンがある、と思う大人もいるかもしれない。
しかし、このお話をきいている4才のルノー君は、パパにつっこみを入れたり、質問をしたりしながら、お話を楽しんでいるようだ。
子供の頃の私も、きっとこの物語を楽しんだのではないだろうか。

大人になった私は、このお話を読みながら、登場してくる動物たちの人間臭さに時々、ぎょっとしてしまう。


表題作の『年をとったワニの話』はアニメーション作品にもなっている。

リュウマチに悩まされ嫌気がさした年をとった鰐は、孫を食べてしまい家族から追放される。旅の途中で出会った蛸と紅海へと旅立つが、鰐は一晩に1本ずつ、蛸の足を食べ始める。フランスの児童文学者レオポルド・ショヴォーの原作を忠実にアニメーション化した。

12分56秒の作品だ。ぜひ、観てみて欲しい。
私は先に、本を読んでから、アニメーションを観た。静かに忠実に作品の世界観が表現されていると思う。

じりじりと、いつまでも、ある種の気持ち悪さと苦しさを抱えてしまうような、妙に後をひく、そんな作品だ

また、魅力的な作家を知ってしまった。他の作品も読んでみたい。

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