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「既存のキャラクターを上手に書く」方法について(後編)

この記事は、シナリオライターになりたい人(あるいは現役の人)に向けて、「既存のキャラクターを上手に書く」ため、私が仕事で実践していることをまとめています。

既存のキャラクターを書くスキルがどうして重要なの?」ということについては、【「既存のキャラクターを上手に書く」方法について(前編)】にまとめていますので、よければそちらをご覧ください。

後編の記事につきましては、諸般の事情により、第3部以降を有料公開とさせていただいています。予めご了承ください。

※できるだけ「なぜそうするのか」を説明するため、文字数が多くなっています。要旨だけ押さえたい方は太字の部分だけ読んでください。

前書き

この記事にある方法論につきましては、全て個人的な経験則と流儀に基づいています。これが一般論であると言うつもりはありません。「私が誰かにシナリオを教える際にはこのように指導していく」という手引書のようなものです。ですので、断定口調でもあまり気にしないでください。

また、この記事の中では、「ユーザー」や「ファン」などのコンテンツを受け取る側の人ことを、媒体や熱中度の度合いに依存しないよう、ひっくるめて「お客さん」と呼んでいきます。

第2部 キャラクターを把握する

自分ではない誰かが作ったキャラクターの台詞やストーリーを書く時は、まずはそのキャラクターを把握しなければいけません。キャラを把握するためには、どういった方法があるでしょうか。

ひたすら既存の台詞を眺めつづける。声優さんがついているキャラなら、その声を聞き続ける。それももちろん重要だと思います。私も、どうしても把握しきれないキャラがいた時に、2~3時間ほどそのキャラの声を延々とリピートして聞き続けたことがありますし、今でもたまにやります。

しかし、1つの仕事にかけられる時間が限られている時、あるいは初見のキャラが複数人一度に登場する時などは、1キャラを把握するごとにそれほど時間をかけてはいられません。

だからといって、キャラクターの把握が甘いまま台詞やストーリーを作成すれば、納品先から十分なクオリティに達していないと見なされ、自身の評価を下げることになってしまいます。

迅速にキャラを把握し、かつ納品物のクオリティを上げる。そのために、私は以下の3つの点を重視して、キャラクターの把握に努めています。

1.お客さんの「好き!」を押さえる

手っ取り早くキャラを把握しようと思う時、私はまず、有志が作ったwikiのキャラページにあるコメント欄を見ます

これはYouTubeでもニコニコ動画でもいいです。とにかく多数のお客さんが書き込んでいるコメントを見ます。(Twitterはおすすめしません。理由は後述)

そのコメントの中で、お客さんたちが「(キャラの)○○なところが好き!」と言っているコメントを探し、主だった意見をキャラ把握の参考にします。この時、批判や要望のコメントはあまり参考にしなくていいです。

お客さんは、自身が持っているフィルターを通して、自分の見たいようにキャラクターを見ています。批判や「もっとこうしてほしい!」という要望のコメントは、個人個人のフィルターや思い入れが強く反映されやすく、偏った内容になりがちです。そのため、誰かの批判や要望を取り上げ始めると、キャラは声の大きい人に合わせて動くようになってしまい、批判や要望を持っていない大多数のお客さんをないがしろにします。ですので、仕事としてキャラを扱うライターは、お客さんの批判や要望をあまりガッツリ見ない方がいいと思います。

(Twitterをおすすめしない理由もここです。人間の特性上、不安や不満などのマイナスな情報は拡散されがちです。また、バズっている意見のRTの数が、イコールその意見に対する賛同ではないことも注意が必要です)

ですが、お客さんがキャラから受け取った「好き!」というポイントは、ほとんど的を外れていることがありません

その理由については明確に言い切れないのですが、たとえ作り手側が意図した部分ではなかったとしても、受け取ったお客さんがそれを「好き!」だと見出していれば、その「好き!」は正しいからだと私は考えています。他の分野に関してもそうですが、何かを好きな人が言っている「好き!」は、およそ間違っていないと思います。

また、キャラ把握のために「好き!」のコメントを参考にする際は、どこに対しての「好き!」が集中しているのか、その比重をざっくり把握しながら見るようにしています。そうすることで、認識上の偏りを減らし、自分の中でキャラクターのバランスが取りやすくなります。

(この手法において言うと、コメントの増加を視覚的に把握できるニコニコ動画は、一番キャラ把握に向いています。ただし、昨今の様子を見るにやや昔のコンテンツ向きなのが残念なところです)

極端なことを言ってしまうと、お客さんの「好き!」さえ外さなければ、どんなに苦手なキャラクターだったとしても、キャラクター像が大きく乖離することはそうそうありません。逆に言うと、お客さんの「好き!」を外してしまうと、キャラクター像を損ねる可能性は上がってしまうと思います。

2.キャラクターの信条を把握する

私がキャラクターを把握する時に重要視しているもう一つのポイントは、キャラクターの「信条」を把握することです。

goo辞書から引用しますと、「信条」とは「考えたり行動したりする時に、基本としているやり方」のことです。

要は既存の台詞を見て、そのキャラが何を好み、何を嫌い、何を目的として動いているか、などの傾向を把握しろということなんですが、初見のキャラが複数人いる時にあらゆる要素を網羅しようとすると、なかなか時間的に厳しかったりします。

なので、初見のキャラの台詞を見る時は、最低限「何を言いそうにないか」を注意して見るようにしています。なぜなら、言いそうなことを言わないよりも、言わなさそうなことを言う方が、お客さんの目に違和感として留まりやすいからです。

たとえば台詞の仕様に「戦闘中、キャラが相手を挑発する台詞」と指示があるとします。ですが、キャラクターの既存の台詞を見てみると、他人に対して悪口を言っている台詞がひとつもありませんでした。その場合、そのキャラは他人の悪口を言わないという信条を持っているキャラである可能性があります。

もし、台詞から読み取れる傾向について、設定資料などに明記されていない場合は、自分で判断せずすぐ監修者に確認を取った方がいいです。くれぐれも「他人の悪口を言わない」という傾向を無視して「挑発しろ」という仕様の指示のまま「関東勢百万と候え、男はひとりもなく候」のような、他人を落とす台詞を納品してはいけません。

(ちなみに、よく無視されがちなポイントとしては、「人の悪口を言うキャラか?」の他に「自分を卑下して言うキャラか?」というのもあります。他はタイトルの世界観によるところが大きいので一概には言いにくいです)

初見のキャラを扱う際は、まず「言いそうにないこと」をしっかりと押さえましょう。そして、そのキャラを継続して書くようになったら、他の「信条」を詳しく分析して、より深いキャラ理解へと持っていけばいいと思います。

第2部 まとめ

ここまでキャラクターを把握する方法について書きましたが、本当は一人で台詞相手ににらめっこするよりも、そのIPを監修している人に「このキャラは○○で××だから▲▲な時は□□する人だと思うんですけど、この認識で合っていますか?」と確認するのが、一番早くて間違いがないです。

ただ、監修者が多忙であったり、働いている場所が違ったりすると、都度確認するのが難しいのも確かです。

だからこそ、自分がいったいどの方法を取れば正確にキャラクターを把握することができるのか、その方法論の確立は、シナリオライターにとってかなり重要なことだと思っています。

また、すべてを感覚に頼るのは、よほどの天才でもない限り、どうしてもムラが生まれます。なるべくどのタイトルに関わった時でも使える汎用性のある手法を探して、武器にしていくのが良いと思います。


「第2部 キャラクターを把握する」は以上です。
「第3部 台詞を書く」では、実際に既存のキャラクターの台詞を書いていく時にクオリティを担保するため注意していることをまとめていきます。
※冒頭でも書きました通り、以下は有料記事とさせていただきます。ご了承ください。

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