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「色彩に着目して絵画展を楽しむ」【鑑賞力向上のヒント②】

絵画の展覧会で、何をどう見たらいいのか漠然としてわからない・・・。
けれど、せっかく美術館に来たのだから、どうにかして一つでもいいから気づきを持って帰りたい・・・。

そんな時は、ぜひ絵画の「色」に注目してみてください。

絵画展を真面目に見ようとすると、筆使いや構図、絵画技法、絵画テーマの読み解き…といった要素を掘り下げなきゃいけないのかな…とつい思ってしまいがちですが、これらは結構難易度が高いんです。時としてある程度の専門知識が必要となる場合も出てきますから。

ですが、「色」をチェックするだけなら、事前知識は必要ありません。非常に簡単です。「じゃあ、この絵で”赤”を探してみようか」と問いかければ、小学生でもできてしまいます。

どんな絵画展も、必ず一定の共通したテーマに沿って作品が集められています。特定の画題やモチーフの作品が集まっていたり、ある時代や国、地域の画家ばかりが集められていたり、特定の美術館のコレクションを特集していたり。そのため、丁寧に「色」を見ていけば、たいていは、ある傾向やパターンが見えてくるんです。「なるほど、この画家は”青”が美しいのだな」などと、自分だけの気付きが一つでも得られたら儲けものです。

では、展覧会では、どのような点に着目して「色」をチェックすればいいのでしょうか?

これは、もう無数にあります。展示をザーッと俯瞰してみて、「今回の展覧会は17世紀オランダの風景画が多いな。では、空をどんな色彩で描いているのかチェックしてみよう」とか、「今回の北斎展では、何か藍色の摺りが多いな。じゃあ今日は北斎の”青”に着目してみようか」などと、自由に切り口を設定してみてください。

葛飾北斎の「青一色」の作品。北斎は、江戸時代末期、欧米から伝わった化学染料をいち早く作品制作で取り入れ、鮮やかな「青」の効果を試しました。

とはいえ、「そんな切り口、すぐには思いつかないよ!」ということもあろうかと思います。僕も展覧会に通い始めた頃は、目の前の絵画を見るので精一杯で、自分なりの切り口なんて全くありませんでした。

そこで、ここからは、どのようなポイントに絞って「色」を見ていけば鑑賞がはかどるのか、汎用的な着眼点をいくつかご紹介したいと思います。もし一つでも、「これは面白そうだな、やってみようかな」と思えるようなものがあれば嬉しいです。

ちょっと長くなりそうなので、初級編と上級編の2回に分けてお伝えするといたしましょう。(初級編は無料、上級編は後半部分は購読者限定にしてみますね)

着眼点①どれか一つ、お気に入りの色を決めて鑑賞する

「色」に着目する鑑賞法のなかでも、特に敷居が低くて楽しいのがこの鑑賞方法です。どんな色でもいいので、まずは一つの色を決めて「今日はこの色を見よう」と決めて、展示室に入ってみましょう。

たとえば、「今日は青を見てみよう」と決めたら、ひたすら各作品の「青」の部分に注目して作品を見ていくのです。

すると、不思議なことに、各作品に描かれた「青」の色彩が何となく浮き上がって見えてきます。

これは、ある特定のものを意識し始めると、関連情報が自然と目に留まりやすくなる「カラーバス効果」という心理効果が働いているからです。

たとえば、僕は風景画を見る時に、あえて自然の風景ではあまり見かけない「赤」に注目することが多いです。試しに、あなたがよく出かける、お気に入りの場所に広がる風景を思い浮かべてみてください。そこには、木々の緑、空や水の青、地面の茶色、黄土色といった色彩が多いはずです。ですが、「赤」ってあんまりないのではないでしょうか?せいぜい、花の色くらいでしょうか?

風景画でも同じです。「赤」が出現する頻度は基本的には低めです。だから、使われていれば目立つのですぐにわかります。

19世紀イギリスで活躍したロマン派の風景画家ジョン・コンスタブルは、数多くの作品で画面にアクセントを与えるため、「赤」を差し色として使う傾向があります。

実際にチェックしていくと、意外なところで画家が「赤」をアクセントとして使っていることに気づきます。たとえば、農夫がかぶる帽子だったり、家屋の屋根であったりです。

でも、なぜ「赤」をワンポイント使うのでしょうか?画面に緊張感をもたせるためでしょうか?あるいは、変化を持たせるためのスパイスのような感覚なのでしょうか?不思議ですよね。

こうして、一つの色を丹念に見ていくことで、その絵の面白さや不思議さを掘り下げるためのきっかけにもなるわけですね。ぜひやってみて下さい。

着眼点②1枚の絵にいくつの色彩が使われているか数えてみる

絵の鑑賞力をアップさせるには、まずはその絵をじっくり観察することから始まります。どれだけ絵を丹念に見ることができたかで、絵を楽しむ力がついてくるわけですね。

前々回の記事で、1枚の絵をじっくり見る習慣をつけるため、まずは17秒以上1枚の絵を見てみましょう…とオススメしました。

ですが、何もなしにじっと絵を見続けるのは苦痛ですよね。これは長続きしません。絵を深く鑑賞するには、工夫が必要なんです。

そこでオススメなのが、その絵に登場する「色」は、いくつあるのかをチェックする、という方法です。

たとえば、19世紀末から20世紀前半のヨーロッパで活躍し、「色彩の魔術師」と呼ばれたピエール・ボナールという画家がいます。ざっくりいうと、印象派を20世紀風に進化させたような画風なのですが、彼の「色」は実に豊かで見応えがあります。

ボナールの風景画。あらゆる色を駆使して、印象的な画面を作っています。

ボナールの風景画や室内画は、遠くから何となく眺めると、ほぼ印象派の絵に近い、一見穏やかな作風の絵に見えるのですが、近くに寄ってみると全く違います。キャンバス上にありとあらゆる色彩が細かく置かれているんです。「そこに紫を使っちゃうの?」「こんなところにピンクが!」などと、驚くほど多くの色彩で表現されていることにびっくりします。

湖上の水面に周囲の風景が映り込む様子を大胆な色彩で表現したモネの初期の代表作「ラ・グルヌイエール」。よく見ると、黄土色や深緑色など様々な色で水面が描かれています。

あるいは、モネやルノワールといった印象派の画家の作品も、多彩な色使いが楽しめます。たとえば、モネは水面に反射する光を表現するために、様々な絵の具を使っています。「こんな色も使うんだ?」と驚くような色使いが見られることもしばしば。また、ルノワールは、女性のなめらかな肌や髪、衣服などの質感に特に注目してみてください。柔和な質感を強調するため、青、オレンジ、緑、黄色といった様々な色彩を混ぜて使っていることに驚かれることでしょう。

たとえば、皮膚の色に注目してみると、黄、紫、青など様々な色が使われていることがわかります。特にルノワールは陰影を表現するため「藍」や「紫」を使う傾向にあります。

このように、どれか1枚の絵を決めて、絵の中にどんな色彩が使われているのか、点検してみると面白いでしょう。すみずみまでチェックするだけで、その絵の前で1分くらいは滞在できます。

着眼点③その絵画展で一番多く使われている色彩を探す

冒頭でも書いた通り、どんな絵画展でも、ある一定のテーマに沿って作品が集められています。当然、タッチや表現技法にも偏りが出ます。色使いにも特徴を見出すことができるでしょう。

たとえば、日本では春先になると桜の作品を集めた企画展が色々と開催されます。すると、当然ながら展示室で一番目立つ色彩は「ピンク」となります。また、8月下旬に大盛況のまま幕を閉じた「マティス展」(東京都美術館)では、背景を「赤」一色で大胆に塗りつぶした室内画の存在感が強く、「赤」が大きく目立って見えました。

こうして、展覧会のなかで一番印象的だった「色」が見つかれば、もう少し掘り下げて考える強力な材料になります。美術館からの帰り道などで、「この展覧会では、なぜこの色が一番目立っていたのだろうか?」などと考えてみることで、意外な気づきが得られることも多いです。

たとえば、あなたがフィレンツェやローマに行って、現地でルネサンス絵画の展覧会を見に行ったとします。そこで見た祭壇画や板絵で、背景に「金」がふんだんに使われていたことが印象に残っていたとします。そこで、「なぜだろう」と思ったら、ググっ

てみたり、AIに聞いてみたりしましょう。

たとえば、chatGPTにこんな感じで聞いてみます。

あなた「ルネサンス絵画では、なぜ金色がよく使われるの?5歳児にもわかるように説明して!」

chatGPT「ルネサンスの絵には、よく金色が使われていますね。それは、金色が特別で美しい色だからです。昔の人々は、金色を見ると、天のような、とても素敵な場所を思い浮かべました。また、金色は王様やお姫様のような、とても大切な人々を思い出させる色でもあります。画家さんたちは、絵をもっときれいに見せるために、この特別な金色を使って、人々を驚かせたり、うっとりさせたかったんだと思います。だから、たくさんの絵に金色が使われているのです。」

なるほど。わかりやすいですね。

このような感じで、「色」に関する気づきや疑問について調べていくと、さらに鑑賞が実りあるものになるでしょう。

ということで、初級編はここまでとなります。次回は、「色彩に着目して絵画展を楽しむ」上級編をお送りしますね。

それではまた!

★「色彩に着目して絵画展を楽しむ」上級編https://note.com/karubi7799/n/n06bd9ac0e40d

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