見出し画像

大根の使い道

 この頃は、大根が市場に多く出回っている。スーパーでは一本小さいもので100円、八百屋ならもう少し大きなものが同じ値段で買える。古いものが2割引きくらいで、腐りかけのものは大樽のなかで漬物にされている。
 大根は葉っぱまできちんと使いたいので、なるべく葉の多くついているものを購入するが、近ごろはついているものが少なくなった。最近の子供たちは魚が刺身のまま泳いでいると誤解してしまうというが、その子らはきっと大根も切り落とされたものが畑に生えていると勘違いしているだろう。

私がそう嘆いていると、大根の葉は傷みやすいから、すぐに切り落としてしまう。もし必要であれば、青果担当のものが裏から持ってきてくれるだろうから尋ねるといいよと的確に答えてくれた知り合いがいた。早速試してみようと近くのスーパーにいた店員に聴くと、怪訝な顔をされて、「うちではそういったサービスを行っておりませんので。」と一言。迷惑な客が来たと言わんばかりの眉のひそめ具合。客に向かって何たる態度だ、と文句を言ってやろうかとも思ったが、この辺の連中に何か言ったところで私に何か返ってくるものはないし、愛想がないのは通常のことなので諦めて帰ることにした。
このスーパーは商店街の中に位置していて、帰宅するには八百屋や米屋など、中々活気ある通りを過ぎる必要がある。特に急ぐ予定もなかったのでぷらぷらと冷やかしをしながら歩いていると、一つの小さな路面店の中に葉がついている立派な大根が売られていた。

なんと!これは大収穫。200円と値は張るが、太さも十分、葉も青々としてて痛みもほとんどなかったのですぐに購入を決めた。ほくほくの気分でドアの鍵を開ける。手を洗って消毒を済ませたら、さっそく大根の調理開始だ。

まず大根は葉と根の部分を切って。根は4等分、葉は細かく切ってそれを二等分にする。半分は炒め物に、もう半分は味噌汁にするのだ。

大根の葉二分の一を細かく切ったものを少しのごま油で炒め、白出汁を加えて少ししんなりしたら火を止めてかつぶしのパックを2袋投入。和えたら大根のおかか和えの出来上がり。お好みで油揚げやちくわを加えても良い。温そばの上にのせたり、おにぎりの具にするとおいしい。もちろん酒のつまみとしても使える常備菜である。
四分の一の根っこのぶぶんをいちょう切りにしてかるく水にさらしたら出汁の中に入れてゆでる。出汁は家庭によって作り方が違うが、私は気分で無添加のだしパックを使い分けている。先日名古屋で撮影があった時に買った名古屋限定のだしがまだ残っていたので今回はそれを使う。恐らく赤みそと合わせたほうが、一番出汁の風味を感じられると思うのだが、残念ながらその時の我が家には合わせ味噌しかなかった。大根に火が通ったら葉を入れてさっとゆで、火を止めて味噌を溶く。すぐに大根をたっぷり作った味噌汁の完成だ。
 
 傷みやすい葉の処理は終わったので、お次は4分の3の根っこをどう使うかだ。
 
 うーん。まずはすりおろしにして軽く水気を絞ってから片栗粉と少しの和風だしの粉を加えて混ぜる。ハンバーグ状にまとめたそれを油のしいたフライパンで両面を焼いて、最後に醤油と蜂蜜をからめる。大根餅の完成。先日台湾料理店に行った際に、大根餅に甘い味噌だれがかけてあったので、それでもいいかもしれない。今度試してみよう。
 もう一つもすりおろしにして水気を絞ったら解凍してあった鶏もも肉を一口大に切り、ジップロックに大根のすりおろし、醤油、蜂蜜、生姜、酢を入れる。すぐには食べれないので空気を抜いて冷凍庫に。食べたいときに解凍して蒸し焼きにすれば鶏肉のみぞれ煮が出来るはずだ。すりおろしであれば、凍らせてもそれほど食感に差は出るまい。

 最後のひとつは角切りにして、鍋でコンソメと炒める。同じ量のベーコンの角切りも入れて味が染みてきたら水を入れ、ぐつぐつと煮込む。大根がギリギリ形をとどめるくらいまでじっくりと煮込んだら大根とベーコンのスープの完成だ。飽きたらミルクをいれてポタージュにしてもおいしそうだ。今日の夕食にしよう。

 できたばかりの味噌汁と大根餅、和え物を玄米に振りかけて今日のお昼ご飯が完成した。大根づくしの献立に満足しながらも、私は次の大根の使い道について考える。鍋、おでん、ブリ大根もいいな、カクテキでも、ぬか漬けでも冬の時期は美味しい。年越しまでに柚を加えてなますも作りたいな。

 料理は私にとって一種の一人遊びである。包丁とまな板をとって台所に立てば、一瞬で創造の世界に飛び込めてしまうのだ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?