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美術展の滞在時間について考える。

 美術館訪問に関してスケジュールを組むとき、その日訪れるのが1館だけなら、滞在時間の見積もりはそれほど重要ではない。しかし2館3館とハシゴをする場合、特に2件目以降を事前予約をしている場合は、予めおおよその時間を見積もっておく必要がある。

 私の場合、

①コマーシャルギャラリー → 15分
②比較的小さめの美術館 → 45分
※東京だとパナソニック汐留美術館、Bunkamuraザ・ミュージアム(閉館)、原美術館(閉館)等
③大きな美術館 → 75分
※東京都美術館、国立西洋美術館、東京国立博物館(いずれも企画展のみ)、森美術館など

 ぐらいをいちおう予定として見込むことにしている。会場規模や私の集中力を考慮し、過去の経験から導き出された平均滞在時間がだいたいこれ、という感じだ。
 念のため移動時間を長めに見積もったり、スケジュールにわざと余白をつくったりして対応すれば、そこまで予定が狂うということもない。。。のだが、展示内容や興味関心に応じて滞在時間が極端にオーバーしたり、反対に極端に短い時間で退出してしまうこともある。
 この間楊洲周延展(町田市国際版画美術館)の場合、スケジュール上は75分を見積もっていたが、実際の総滞在時間は150分を超え、美術館を出る頃にはだいぶ疲労困憊になってしまっていた。その反対に、内容が自分には面白くなかったり、とてもじゃないが展覧会の混雑や雰囲気がひどかったり、あとは急な体調不良だったりで、大規模な美術展でも30分以内で退出してしまったケースも過去にはある。

 この滞在時間は果たして平均的なのだろうか。
 調べてみると、国立西洋美術館や松岡美術館では、ホームページに自館の平均的な滞在時間を記載している。

 これによると西洋美術館の常設展は60〜90分、松岡美術館は60分とのこと。さらに言えば、かつてのコロナ禍の際、東京国立博物館の特別展には観客の流動性を高めるため「90分を目安に鑑賞してください」という趣旨の但し書きもあった。それを踏まえて考えてみると、私の滞在時間は割と平均的ということになる。

 同時に、美術館側がこういう訪問時間を示していることは、平均時間としてそれぐらいに観終わるように美術展も、もっと言えば展示室も建設段階からそういう風に設計されているのかもしれない。
 西洋美術館のマックス平均が90分、誤差30分として120分の鑑賞は想定していたとしても、一つの企画展で180分以上の鑑賞はあまり想定していないような気がする。もちろん客としてはゼロではないけど、そういう客がわんさかいる状況は想定していないだろう。立ちっぱなしで180分というのは体力的にも頭脳的にも厳しいし、それだったら展覧会を前期・後期に分けてしまったほうが観客の負担も少ない。そういう部分で負担を感じた経験が過去に無いということは、展覧会の企画運営者がそこまで配慮している、あるいは当事者としては無意識でもそこへの配慮を行うためのルール・慣習がしっかり出来上がっているということなのかもしれない。

 博物館展示論なんかで展覧会を考察する際、展示室に応じた作品展示数を機械的に考えるのではなく、「なぜこの展示"数"なのか」も思いを巡らせる必要があるように思う。運営する側の身になって考えると、作品を無計画に敷き詰めるのも良くないし(ワンコーナーとして、大量の作品を並べるという手法はある)、反対にスカスカすぎても良くない。展覧会運営において、考えるべきことの多さを改めて感じる。

 ちなみに、作家の澁澤龍彦はパウル・クレー展を20〜30分程度で展覧会全体を一周したと、タイトルは失念したが本人のエッセイで読んだことがある。文字からはその展覧会の規模というのが見えてこないが、澁澤は基本的に展覧会でほとんど足を止めることをせず、歩いて観て回っていたという。美術に関するエッセイも多い澁澤としては驚かされるエピソードで、よほど審美眼に自信があったのかと想像する。

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