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『ジャムセッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン』(アーティゾン美術館)

私の手元に二通の封筒があります。それは今から20年近く前、丸善丸の内本店で山口晃の出版記念講演会が開催されたときにスタッフより渡されたもの。その講演会の内容がガッツリ「講義」であり、慌てて封筒の裏にメモをとったのでした。
藝大を受験したときの受験番号が818番だったので「ハイパー山ちゃん合格!」という、今見ると謎な記述もあれば、高校時代、文芸評論家である中村光夫の文明論に触れ、近代以降「断絶」を続ける日本文化の正統な「継承」を目指した青年時代、しかしその不出来に懊悩し、ふとした落書きから自分のとるべき道(今回の展示の言葉を引用すれば「自分からはじめる」)を見つけたという話… 広告や漫画をも手がける、軽妙でレトロでキャッチーでユーモラスな作風の反面、非常に生真面目で、控えめながらも毅然とした部分を持ち合わせた方だという印象でした。このメモは今も捨てられずにいますし、おそらく今後もでしょう。
 
会場に入り最初に通されるのは「平衡感覚を失う部屋」(正式なタイトルは《汝、経験に依りて過つ》)というインスタレーション。パスすることもできるのですが、数年前、同じ場所で鴻池朋子の滑り台を滑った私が断るわけがなく、そのまま部屋の中へ。数分後、この展覧会を訪れる直前に美術館の向かいにあるすき家で朝食代わりのおろしポン酢牛丼(小)を食べたことをちょっと後悔しつつ、一旦ソファでの小休止を挟んで鑑賞再開。
今回はアーティゾン美術館のコレクションとのジャムセッションということで、とりわけ山口さんが重点的にチョイスをしていたのはセザンヌの作品。セザンヌの絵画は「錯覚」、たとえば作品を左右から見ると消失点が移動して画面の印象がガラッと変わったり、色彩遠近法によって画面内のオブジェクトの前後関係が「見えて」しまったりというような要素があるのですが、これに対する山口さんの作品もそういった「錯覚」的なものをふんだんに利用したもの。前述の「平衡感覚を失う部屋」もそうですし、表題作《サンサシオン》は一見意味不明ですが、ある観賞方法に気づくと一気に「はぁぁ!」となります。
 
「山口晃と言えば」の見慣れた図屏風風の風景画も、この20年ほどで大分「進化」しているんだなと思いました。過去の作品は過去と現在の共存に重きが置かれていたように見えますが、今回観た作品は、人間のサイズがバラけていたり補助線が設けられていたり、まるでSFアニメのバリアのようなカラーゾーンがあったり… こちらとしてもっくり観るのが「更に」楽しいコンテンツとなっておりました。『すずしろ日記』のスタイルで描かれた《当世壁の落書き》(2021)は政治優先で物事を考える人にはなかなか届かないのでしょうけど、冒頭に書いたメモの話題に通じる、山口さんの誠実さを感じる内容でした。
 
今回はアーティゾンの6階フロアのみを使った展覧会ですが、展覧会としては絵・文字ともに情報量が相当多いということもあり、カタログはオススメ。2200円と比較的安価ながら今回の展覧会に対する最適解とでも言うような製本になっております(4階インフォメーションセンターで「立ち読み」可能、一つ言えるのは、袋は捨てちゃダメです)。QRコードがついており、2026年まで展覧会の様子はインスタレーション含め閲覧可能とのことでした。

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