見出し画像

セルフケアと"美術"解剖学

 先日コロナに感染した際、私は経験したことの無い胸痛に苦しんでいた。

 痛みを感じる箇所は左胸寄りの中央部。肋骨をくっつけている胸骨の一番下、みぞおちの上辺りと言うとわかりやすいだろうか。その時は扁桃炎と咳のピークで、当初は肺炎や気管支炎、さらに薬の副作用(心筋梗塞・狭心症等)の可能性も疑っていた。
 とりあえず副作用説を消すため、私は薬剤師に電話をかけた。
「薬を抜いても大丈夫ですよ」
 ということで、その確認のもとで一度薬を抜いてみたけれど、半日ぐらい抜いても胸痛は収まらない。どうやら副作用の可能性は低いらしい(翌日より服薬再開)。だとすると肺炎か、しかし肺炎だとしたらもっと肺全体が痛んでても良いような気もする。ちなみに後で知ったが、気管支は胸の中央に近い部分にあるため、気管支炎の可能性も(この時点で気づいていないが)実は薄い。
 数日後、発熱や扁桃炎といった症状は概ね収まったものの、咳と胸痛が続く。再度かかりつけの医者に見てもらい、咳止め等の薬を処方してもらった。新型コロナには後遺症が起きるケースも承知しており、ひょっとして私がそれに…と、正直不安な気持ちもあった。
 が、痛む箇所が中央に近い箇所から、より左側に「動いている」ことに気づいた。痛みの範囲が「広がる/狭くなる」ことはあるとしても、「動く」可能性はあるものだろうか。ここで私は肺炎ではなく、筋肉痛の可能性を疑った。筋肉痛であれば、傷んでいる筋肉が変われば痛みの「移動」というのも考えられる。よく考えたら内臓というより、より表面的な箇所に痛みを感じるような気もする。
 そして薬を飲み、咳の症状を押さえているうちに、痛む箇所が肺や胸を通り越し、左腕の脇の下に移っているのを感じた。大胸筋が胸部のみで完結しておらず、筋肉が腕(三角筋の下)にくっついているのは、少し解剖学をかじった人間だったら誰でも知っている。この段階で、これは肺炎なんかではなく、筋肉痛だと確信した。
 1~2日で胸痛は収まり、その翌日には咳をしても、胸が痛くなることは全くなくなった。

 「美術」がつくとはいえ、臨床なしの座学とはいえ、解剖学を勉強しておいて良かったなと少し思う。美術解剖学のみならず医学生向けの解剖書なども持っていて、ときどき見返したりもしているが、まさかそのときの感覚が役に立つとは。医学としては全く正確ではないかも知れないが、少なくとも不安の緩和には十分貢献した。
 解剖学を学んだことで、自分の体の中のブラックボックス状態を多少なりとも解消してくれたような気がしている。解剖学を学ぶ前まではそもそも胸骨があるということを知らなかったし、骨や筋肉、内臓の正確な位置を把握しようともしなかった。解剖学を勉強する際、自分自身(同意があればパートナーなど、他人でも可)の身体に触れ、筋肉や骨の位置を確認する方法があって、自分の体を部品として把握する感覚があったことが、そこまで慌てずに済んだのかなと自画自賛している。

 ちなみに10年前、資格試験の終了直後だったか、やはり左胸が急に痛くなり、これは心臓の何かだと思い病院にかかったことがある。その時、医者の先生に
「心臓って左じゃなくて、中央にあるんですョ」
 と窘められていたことが懐かしい。

【免責事項】文中の症状・体調に関する見解はあくまで素人判断です。間違っている可能性があることをご承知ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?