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「パリ ポンピドゥーセンター キュビスム展-美の革命」(国立西洋美術館)

 展覧会で使われていた言葉を使うと、すでにある現実の模倣から離れ、新たな現実の創造へと向かっていったのがざっくりとしたキュビスムのイメージ。ただそれだけに同じギターを描かせても従来の絵画は実物に近いそれが描かれる一方、キュビスムのギターはまともな色も形もない、ただの線の集積が描かれてしまうこともあります。
 その難解な線の集まりが「分析的キュビスム」と呼ばれる初期~中期のキュビスムで、そこからパピエ・コレ(コラージュ)、文字、色彩が復活した、比較的分かりやすい「総合的キュビスム」へと移行していきます。デフォルメの一手法として収斂してしまった感もちょっと否めないのですが、分析的キュビスムで純粋なそれを突きつめたからこそとも言えると思います。

 今回の展覧会は数多あるキュビスム展のなかでも、比較的見やすいほうだったと思います。総合的キュビスムの紹介比重を増やし、またサロンでもキュビスム的表現を取り入れたケースなどを紹介。キュビスムを難しく考えさせるのではなく、より広い層に親しみやすく構成されているように感じました。一昨年開催のピカソ展に関し、ゴールデンタイムのトーク番組で出演者の1人が「分からなかった…」と肩を落としていることもあったので、今回はその点を意識したのかもしれません。
 それでも難しい部分が全くないとも思わないのですが、そうした「よくわからない」の対処法として、描かれているものを2Dの画像ではなく3Dの立体物として存在している状況を想像し、その触覚を手に想像してみる、というのはあるかもしれません(もちろん実際に触っちゃダメですけど)。そもそもキュビスムはセザンヌの後継ですので、セザンヌで言われている多視点や複数の遠近法を用いた立体感の演出など、そういった特徴はキュビスムにも同様に見受けられます。
 例えば今回のキービジュアルであるドローネー《パリ市》(2)は頭の中で絵に触り、ガラス細工のような不安定な表面が魅力的。同じくドローネー《都市 no.2》(1)は多視点、正面からだけではなく左右からの鑑賞を通じ、あたかも実物がそこにあるかのような立体性を感じられる作品かと思います。クプカ《色面の構成》(3)はドレス姿とみられる女性をモチーフにした作品。暖色の構成が黄昏時の温度を醸しており、珍しく色気のあるキュビスム作品となっております。触覚を意識することで、色彩がもたらす温度とか、そういうものにも気づいてくれるかと。

 能動的に鑑賞をしようとすればするほど、キュビスムの作品はそんな観客の要求に応えてくれるような気がしています(逆に、印象派の風景画のように「落ち着いて観たい」という時には向かないタイプの芸術なのかもしれません)。今回は間口を広げている分、従来のキュビスム展では感じられないキュビスムの魅力を感じられる(かもしれない)、面白い展覧会でした。

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