狩野 都

寒い朝の二度寝と猫が好き。 趣味は酒と料理と読書。 つねに何か思索しているので、階段を…

狩野 都

寒い朝の二度寝と猫が好き。 趣味は酒と料理と読書。 つねに何か思索しているので、階段を踏み外したり、何もないところでよく転ぶ。

最近の記事

天使と笑い

かつて読んだ「その日の天使」という文章を、ふとした時に思い出す。八方塞がりというか、憂うつを何かで解消しようという気力すら無くなった時に。 その短文の作者である中島らもは、アルコール中毒を自認し妄想や幻覚のような奇妙な読後感のある小説を多く著していて「その日の天使」は彼の作品の中では異質な、恋愛に関するエッセイ集にあった。 どうにもならない現実に落ち込んで、生きるか死ぬかという瀬戸際の精神状態で街を歩いていた作者の耳に、飛び込んできた焼きいも屋の売り声。スピーカーから流れ

    • 香り

      そのひとは、好きな香りがした。 よくある香りの濃い柔軟剤や洗剤とは全く違う、繊細な。たぶん、普通なら気づかないほどの微かな香りだ。 私はどうやら嗅覚が鋭いらしい。 数年前アロマオイルに興味を持ち始めたのがきっかけで、以前から好きで集めていた香水の、それぞれにどんなノートが含まれているか、ある程度嗅ぎ分けられることに気づいた。 私が10代の頃に初めて買ったのは、スイートオレンジとムスクが香るドイツ製の男性用オーデコロンだった。ターコイズブルーの地に金の文字が描かれたクラ

      • いずれ春永に

        借りたままの本が何冊か本棚に入っている。どれも最近借りた物ではなく、10年から20年は経っている。 『いずれ春永(はるなが)に』ということばがある。 能か狂言で使われる言葉で『再び春が巡ってくるように、いつかまたお会い出来ることを願っています』という様な意味。ずっと以前、三島由紀夫の随筆で読んだ。 再会を無理強いしていない、でも十分にこころが伝わるような良いことばだなとずっと覚えていた。そんなふうに言いたかった場面があったのだけれど、その頃の私には似合わなかったから言え

        • 記憶の匂い

          記憶を呼び覚まされるような匂いがある。雨の匂い、雪の匂い。夜気のなかで、ふいに漂ってくる花の香りとか、濃い草の匂い。 何年も前のことになる。或る店に、よく通っていた。 古着・古書などを扱っていたので一応は「店」なのだけれど、古びた雑居ビルの三階にあった其処は、不思議な場所だった。 子宮の中を思わせる、狭くて薄明るく安心感のある場所。 オレンジ色のぼんやりしたあかりに照らされた小さな部屋の中には、いつもうつくしい耳鳴りのような音楽が鳴っていて、たくさんの本やレコード、アン

        天使と笑い

          酒日記

          私は酒が好きである。 でも、いわゆる酒豪ではない。そんなに量は飲めない。好んで飲むのが度数の高い酒ばかりなので、強いように見られるが、そうでもないと思う。 まあ、弱くはない。しかし酔うためだけに飲む、というのでもない。 酔う感じはちょっとは味わいたいが、それより何より、酒の味・香り・色・あとはボトルやラベルに至るまで酒が好きなのだ。 酒に関して、なんとなく自分の中に決まっているルール。 1・吐かない 2・つぶれない 3・ペットボトルに入った酒は飲まない 1・2について

          眠い毎日

          この数日雨が続き、すっかり寒くなった。毎日とても眠い。 家事の合間にソファに座ると、身体がズブズブと埋まり込むように重くなり、たちまち眠りに落ちてしまう。仕事にならない。 たぶん、人間にも冬眠はあるんじゃないかと思う。ひと冬、眠っているわけにはいかないから「身体能力30%減」くらいかもしれないけど。 11月くらいからの、これから冬になるこの時期はいちばん苦手だ。北欧で冬に自殺者が多いっていうのもわかる気がする。 北国で生まれ育った私は、毎年4、5月に桜も梅もほぼ同時に