播磨陰陽師の独り言・第二百五十話「墓場に住む人」
これも事件屋の時のことです。
知人のA氏は墓場の真ん中にある一軒家に住んでいました。彼が墓場に住んでいたのには理由があります。世の中には墓場の近くを好んで住む人もいます。しかし、A氏は、墓場が好きだから住んでいた訳ではありません。ずっと普通の住宅街で暮らしていたら、いつの間にか周囲の家が売りに出されて取り壊され、跡地に墓場が出来はじめたそうです。
A氏は、
「ある日を境に、墓場の方が引っ越して来たんやから仕方ないしなぁ」
と笑っていました。
詳しい場所は言えませんが、関西の○川と言う場所にある墓場のことです。
最初はいくつかの墓が家の周りに立っていただけだったようです。それが気づいたら、あっと言う間にたくさんの墓石に家が囲まれていたようです。
A氏は霊的なことは信じていませんでした。むしろ見えるとか、感じると言った人を、馬鹿にするような人でした。だから、家の周りが墓場になったところで、何も気にすることはなかったそうです。しかし、ある夜、窓の外を飛ぶ人魂を見てから、人生がおかしくなりました。おかしくと言うのは語弊があるかも知れません。おかしな世界を信じるようになって、しかも慣れてしまったのです。ほとんど毎晩見る人魂。蛍よりも頻繁に見るのですから珍しくもありません。
その内、幽霊も見るようになったそうです。ぼんやりと家の近くに佇む幽霊は、怖ろしいと言うより、哀れだったそうです。
見えるようになると、案外、幽霊が少ないことに驚いたようで、ある日、
「毎年、たくさん人が亡くなるのに、幽霊はそんなに多くないんやね」
と聞いてきました。
私が、
「死んだらすべてが幽霊になる訳ではありませんので」
と答えると笑っていました。
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