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播磨陰陽師の独り言・第三百四話「狐の好きな油揚げ」

 油揚げと言えば〈お稲荷さん〉ですか……関西と関東では稲荷寿司の形そのものが違うそうです。関東のは俵形で、関西のは三角です。
 俵形のお稲荷さんは、背中を向けていますが……私の田舎では俵形で背中を下にして、お稲荷さんのご飯の方を上にし、その上にピンクの桜でんぷんを乗せています。たくさんお稲荷さんを並べたら、ピンクの色が綺麗でした。運動会では、たくさんのお稲荷さんを作って親戚まで集まっていました。地方によって形は様々ですね。
 さて、油揚げに関係した食べ物を〈お稲荷さん〉とか、〈狐うどん〉とか言います。狐に関係した言葉で表現されるのは、狐が油揚げを好むと信じられているからです。しかし、皆さん、動物の狐が油揚げを食べているところを見たことはありますか?
 たぶん、ないと思います。
 では、なぜ、狐と油揚げは紐付けされて表されるのでしょう。それには理由があります。
 一般的な説明では、
——狐と油揚げの色が似ていることから。
 とされています。まぁ、似ているかも知れませんが、果たして説明の通りでしょうか?
 私はこの説明を聞いても何だかスッキリしませんでした。犬も多くは油揚げのような毛色をしています。
——まずは、身近な動物である犬や猫をたとえるのではないのかな?
 とも思います。
 なのになぜ、狐?
 狂言に〈釣狐つりぎつね〉と呼ばれる作品があります。その中に、油揚げが出て来るではありませんか。しかも、若い鼠の油揚げです。狐はこれが好物なようで、罠にかける時は必ず餌として仕掛けたそうです。
 動物の狐が油で揚げた食べ物を食べるのかな?
 とも思いますが、古い資料にはある話なので、もしかすると食べたかも知れません。
 実は、動物の狐と、神獣であるお稲荷さんは別なものです。お稲荷さんは動物ではありません。
 稲荷と言う存在は、古くは〈なり〉と書いていました。この世のものとは別な異な世界の霊獣のことです。
 それが平安時代くらいの頃、女の人に化けていたところ、夫から、
——来て寝ろ。
 と言う意味で、
——来つ寝。
 と言われたところ、正体がバレたと思い、庭にいた動物を見て、その姿に化けて逃げ出しました。その時、庭にいたのが動物の狐です。この時、その動物に〈きつね〉と言う名前がつきました。これ以降、霊獣のお稲荷さんは、狐の姿をしていると考えるようになりました。そして現代にいたる……だからお稲荷さんは狐の姿で描かれるのです。
 さて、狐に化かされることを、
——狐に摘まれる。
 と言います。何が摘まれるのでしょうね。
 正解は〈鼻を摘まれる〉のです。これは、狐から、鼻摘み者にされると言う意味ではありません。鼻を摘まれることにより獣臭が分からなくなるのです。そして、鼻を摘んだ狐は、眉毛の数を数えながら、ある種の催眠術をかけて人を化かします。この時、眉毛の数を数えられなくすれば、たぶらかされないことになります。だから、眉に唾をつけて防御するのです。そして、これらのことを〈眉唾〉と呼びますが……。

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