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夢の構造・第一話「夢はどんな世界か」

 あなたにとって夢の世界とは、いったい、どのような世界ですか?
 ただの幻想の世界ですか?
 それとも、何らかの、不思議な意味を持つ世界ですか?
 実は、夢の世界はひとつの世界ではありません。そして、とても複雑な世界です。夢の世界は、潜在意識が見せる世界や、その他の様々な心の世界を含んでいます。簡単に言うと、夢の世界とは、いわゆる〈霊界〉のことを意味しています。
 霊界とは無関係な夢も様々あります。特に霊界のことは〈あの世〉や〈霊の世界〉と呼んで区別しています。
 このことは伝承にも、

――もともと、この世ならぬ、あの世のこと、例の世界を差して、霊と呼ぶは言い得て妙なり。

 と伝わっています。
 さて、われわれ播磨陰陽師は、霊の世界としての夢の集まる場所を〈夢殿〉と呼んでいます。夢には、夢の集まる場所があります。これは物理的な場所を意味していません。潜在意識の奥の奥を意味しています。その場所を、古い言葉で〈夢殿〉と呼んでいるのです。
 古伝に曰く、

――夢の集まりたる所あり。夢殿と伝う。

 この夢殿と呼ばれる場所には、すべての夢が集まると言われています。そこには訪問者としての生きている人がいます。彼らは眠っていて夢の世界に入っています。また、ここには住人としての、死んでしまった人々がいます。彼らは、生きる者の夢の世界と、自分達の死後の世界を共有しています。

 通常は、この世界では……心が思うままの映像を見せるので……夢を見ている人の意識は、その場所がどこであるのかを感じることはありません。つまり、そこが夢の世界だとは分からないのです。もちろん、霊的な夢の世界である〈夢殿〉が分かる筈もありません。
 もし、ここで、夢殿へ行きたければ……他の種類の夢と区別しづらいこともあり……あえて指定して夢殿へ行くことが必要となります。夢殿へ行くことにより、他の人や、夢の国の住人から様々な情報を引き出し、現実の世界で役立てることが出来ると言われています。

 たとえば、夢殿へ行く事例として、夢殿の中で本を読むことがあります。現実には、存在すら知らない本を細部にわたって読んだ後、現実でその本に出会うこともあります。あるいは、自分で何か想像しようとした時、夢の中で完成した状態を見ることがあります。
 夢の記憶に基づいて、実際の完成品を発明したと言う事例は、歴史の出来事の中にも多く見られます。
 たとえば、ミシンの発明者がミシンの針先に穴が開いている夢を見たとか……他にもいくつもの歴史的な大発明が、夢を見た結果行われたと言う事例があります。これらの出来事のいくつかは、夢殿に行って、情報を得た結果だと思われます。
 また、夢殿へ行って、連絡を取り合い、現実世界で出会ったりする現象がいくつも確認されています。

 基本的な夢殿は、学習する場所です。これは人間世界の大学に相当する場所だと思っていて下さい。人は、眠った後、この夢殿と呼ばれる場所で多くの物事を学習するのです。場合によっては、悪夢と戦うための訓練を行うこともあるのです。

 普通の夢を見る時は、潜在意識の深いところに意識は入り込むことはありません。この時は、夢を見る人の記憶を元にして、夢の世界が作られます。夢の内容は、普段の日常と変わることはありませんが、記憶の混乱があって、子供の頃に住んでいた町の中に、旅行した先の建物があったり、体験した出来事がいくつも合わさって起こったりしています。
 夢を見ている人は、それが夢であるとは気付きません。また、奇妙な印象を受けることも稀です。もう少し深いところに入ると、少し奇妙な違和感を感じる夢を見ます。しかし、意識自体は、その違和感を無視することが多くなります。
 その奥に夢殿があります。
 夢殿は、その夢を見た……つまり夢殿へ行ったことのある人のほとんどが同じような景色を語ります。風景に微妙な違いはありますが、概ね同じ場所を見ているそうです。

 その景色とは、島の真ん中に大きな山があるものです。四方には小さな山があります。そして平地の部分から、山へ向かって街が広がっています。この街の建物は夢を見る人によって異なります。多くは、今まで見たことのある建物が建っています。
 たとえば、東京タワーの横に京都の清水寺が建ち並ぶような、記憶の混乱に基づいて作られた街です。しかし、大きな建物は少ないです。特徴のない街並みが山の上まで続いています。
 夢の中では、その夢を見ている人がこの街に住んでいます。どこかから来て、その夢の世界にいる……と言う記憶ではなく、最初からここにいる感覚を持っています。
 街の中で出会う人は、現実世界の知り合いもいれば、まったく知らない人もいます。しかし、夢を見ている限り、知り合いは知り合いですので、誰もが昔から知っているような気分になっています。
 夢の中にも知らない人もいますが、それらの人々は、ただの通行人であり、興味も、知り合うこともありません。
 四方にある小山の上には、神社のような建物があります。人によっては寺や教会を見る場合もあります。これは宗教的な意味あいを持った施設を見ると言う意味です。
 島の真ん中の大きな山の頂上には、神社が建っています。神社を知らない人は、その建物の意味が分かりません。しかし、見ているものを描かせると、やはり共通して神社のような建物の形をしているようです。ですが、ここは神社ではありません。
 言うならば学校のような建物です。この場所は古くから〈学舎《まなびや》〉と呼ばれています。学舎に行けるのは稀です。ここへ行けた人は、勉強させられたり、修行させらたりしているそうです。時々、試験があり、それに合格すると、さらに深い夢の世界へ行けるようになります。
 この場所は、かなり昔から知られていて、古文書にいくつも地図が残されています。夢殿にしても、学舎にしても、時間と言う概念がないため、過去の人々と接触することがあります。過去の人々はリアルタイムでそこの夢を見ています。ですが、未来の人に接触することは稀です。その理由は、未来の人々が夢を見ないのではなく、夢を見ている人に理解出来ないからです。もしかすると、かなり未来の人がいるかも知れません。しかし、過去の人々も、今の人々を未来人と認識している訳ではありません。夢殿には、過去や未来と言う概念そのものがなく、同じ人間が、複数、夢殿に入っている場合もあります。年齢の違う同じ人がいて、もしか、過去の自分を見つけられたら、過去の思い出を書き換えることが出来ます。出来ます……と書きましたが、勝手に過去の自分に出会って、過去の記憶を美化する場合がほとんどです。
 あるいは、されてもいない過去の出来事の被害者となるような……身勝手な記憶に書き変わっている場合もみられます。どんな記憶に書き換わるかは、その人の性格や、現在の環境によって異なります。
 もし、仮に、その記憶の書き換えをコントロールすることが出来れば、過去の出来事そのものを、現在の意識によって変更することが可能となります。夢の構造・第ニ話へ続く。

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