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播磨陰陽師の独り言・第二百五十二話「座敷牢」

 ウサギのケージを見ていると、もう、忘れてしまっていたことを思い出しました。子供の頃、祖母の実家に座敷牢がありました。祖母の実家なので、曽祖父の家です。古い日本式の家屋で、大きな土間がありました。毎年、餅つきの頃になると、親戚身内が集まって、餅を作りました。そんな中で、遊びに行った時、時々、座敷牢を見ていたのです。
 私はまだ幼かったので、
——大きな家には座敷牢はあるものだ。
 と、当然のように思っていました。
 しかし、成長するに従って、そうではないことに気づきました。
 座敷牢の中には、小さな女の子が正座していました。いつも着物姿で座っていたのです。ある時、そのことを祖母に聞きました。
「あの子は従妹いとこか何かなの?」
 すると祖母は、
「あれは人じゃない。わしらにしか見えてもおらんしな」
 と、吐き捨てるように言いました。そう言えば、座敷牢の鍵には霊符が何枚も貼ってありました。以前、叔母たちに座敷牢のことを聞いた時も、
「さぁ、あの中には誰もいないよ」
 と言うだけでした。
 祖母の実家とは書いていますが、祖母の祖父の家です。祖母の祖父は、その頃、まだ生きていました。
 この、祖母の祖父は、祖母ともども、私に播磨陰陽道を伝えてくれた人でした。
 それから何年か経ち、祖母の祖父の葬式の時、座敷牢が勝手に開く事件がありました。鍵に貼っていた霊符も勝手に剥がれたのです。そして、中に座っていた筈の女の子も、行方不明になりました。誰にも見えていなかったので、行方不明とは言えないかも知れません。ただ、座敷牢の中の空気が変わったとだけ、皆が言っていました。
 あれは、何のために座敷牢にいたのだろう?
 何をしていたのだろう?
 今となっては不明ですが、あの頃は必要あっての処置だったと思います。ただ、見た者の記憶はほとんど消されていたようです。あとで叔母たちに尋ねても、
「さぁ、座敷牢なんかあったかしら?」
 と、首を傾げていました。
 私の記憶も、今まで消されていたようですが、記憶の操作には寿命がありますので……。

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