御伽怪談第一集・第三話「当たり前だの」
一
寛政七年(1796)の初夏のことである。江戸牛込の山伏町に小さな寺があった。派手な伽藍で有名なこの寺には色々と不思議な噂があり、名は隠すことにする。その寺で住職の源信と言う年老いた和尚が、長年、赤猫を飼っていた。赤猫とは茶色の虎猫のことである。江戸時代、どの家でも赤猫を〈アカ〉と呼んだが、この寺も例外ではなかった。
初夏の日差しは暖かく、源信和尚は蝉の鳴く声に耳を傾けながら縁側でまどろんでいた。庭には数羽の山鳩が遊んでいた。和尚は生米を撒きながら山鳩の姿を眺