草仲一凜

わたしはわたしの国に行きたいです。

草仲一凜

わたしはわたしの国に行きたいです。

記事一覧

4. 〜 朝の散歩

 海に人がいるなんてこと知っていました、とっくに。わたしが行きたがらないので彼にはいじわるをしてしまった。  雨の音がする。恵みの雨ににきびは膨らむだろう。  …

草仲一凜
3か月前
2

3.にきび畑にて 〜

 わたしのにきびが嫌いですか?わたしは脳のちょうど10%を占めるくらいあなたの消滅を願っています。17の、初夏にくるまれたあの日、わたしはカラフルな錠剤たちを大量に…

草仲一凜
4か月前
3

クリーニング

 鋭利な鉄塔にはぐるりと非常階段がついている。  長いこと上を目指してのぼっているからわたしは手すりにつかまり半分くらい体重を預けた。空気を泳いでいたのは埃だっ…

草仲一凜
6か月前
1

2.疳の虫探し

 わたしというやつは昔から癇癪持ちだったそうで、よく癇癪をおこすから、かんきり寺に連れて行こうか迷ったほどだと母親は言っていました。わたしは疳の虫に寄生されてい…

草仲一凜
6か月前
2

1.小さい守り

 地球にも日本にも宇宙にもいません。窓の外を眺めると、別世界が広がっています。わたしというやつはアルバイトの面接に行くそうです。一凜はカラスさんの歩く時の跳ねる…

草仲一凜
6か月前
3
4. 〜 朝の散歩

4. 〜 朝の散歩

 海に人がいるなんてこと知っていました、とっくに。わたしが行きたがらないので彼にはいじわるをしてしまった。
 雨の音がする。恵みの雨ににきびは膨らむだろう。

 全て知っているような気がするんです。海に行っておこる嬉しさも悲しさも知っているからいりません。だからわたしじっとしていたのに、いつだって分かってくれない。いつだって。最近会ったばかりなのに。そういうことはよくあります。
 にきびは沸騰させ

もっとみる
3.にきび畑にて 〜

3.にきび畑にて 〜

 わたしのにきびが嫌いですか?わたしは脳のちょうど10%を占めるくらいあなたの消滅を願っています。17の、初夏にくるまれたあの日、わたしはカラフルな錠剤たちを大量に飲みこみました。そのことをいまだに怒られているのか、一体どんな理由でかは知りませんが、にきびはその頃からわたしに根づいたのです。

 にきび畑には今が盛りと焦ったにきびたちが飛び出し、実をつけて、麦藁帽子が風に揺らめく内側にその真っ黒な

もっとみる
クリーニング

クリーニング

 鋭利な鉄塔にはぐるりと非常階段がついている。
 長いこと上を目指してのぼっているからわたしは手すりにつかまり半分くらい体重を預けた。空気を泳いでいたのは埃だったのだろうか。こうやって煤になり、わたしの開いた手相をあらわにする。墨汁くらいでしかここまで黒くなることはなかった。だから、どれだけ眺めていても飽きがこなかった。それくらい疲れていて、急ぐ必要もなかったし、空を仰げば深い藍色の空に包まれてい

もっとみる
2.疳の虫探し

2.疳の虫探し

 わたしというやつは昔から癇癪持ちだったそうで、よく癇癪をおこすから、かんきり寺に連れて行こうか迷ったほどだと母親は言っていました。わたしは疳の虫に寄生されているそうなのです。

 一凜は森の中にあるお屋敷に帰ると、自分の部屋の本棚から『虫』と背表紙に書かれた一冊の図鑑を取り出します。蟻、蜘蛛、触手うにょうにょ、ヤゴ、アマガエル、げじげじ……。ページを繰れど繰れど、疳の虫は見つかりません。どうやら

もっとみる
1.小さい守り

1.小さい守り

 地球にも日本にも宇宙にもいません。窓の外を眺めると、別世界が広がっています。わたしというやつはアルバイトの面接に行くそうです。一凜はカラスさんの歩く時の跳ねる動作を真似して一羽のカラスさんとものまねのし合いをしています。カラスさんは一凜が招き入れました。カラスさんはごみをあさるカラスでも公園で餌付けされているカラスでもびっこを引いているカラスでもありません。唯一無二のカラスさんです。カラスさんの

もっとみる