マガジン

  • 蛍火の誓い

    『蛍火の誓い』というショートドラマです。 恋人同士の永遠の愛と別れ,そして再会への希望をテーマにしています。 幻想的な夜の森,蛍や流れ星の象徴的な要素,彼岸花がもたらす儚さが織り交ぜられています。

  • 風鈴の響き,再開の夜

最近の記事

10月の風と君の記憶

風が少し冷たくなってきた,10月の朝。   君のことを思い出すのは,いつだってこの季節だ。   まるで,君がどこか遠くへ行ってしまう前の, あの最後の瞬間を繰り返しているみたいに。 君と過ごした時間は,まるで夢のようだった。   一緒に笑って,泣いて,未来を語った日々。   あの時は,別れなんて考えもしなかった。   永遠に一緒にいられると,信じていた。 でも,別れはいつも突然訪れる。   君がいなくなるなんて思ってもいなかったあの日,   10月の風が吹いて,君は僕の前

    • 年に1度の珈琲の香り

      今日も…この日が来た。 年に一度だけ,私がこの喫茶店に来る日。 もうずっと前から変わらない,静かで,落ち着いた空間。 普段,私はコーヒーを飲まない。 特に好きってわけじゃないし,むしろ少し苦手かもしれない。 でも,この日だけは違う。 この日だけは,なぜかコーヒーが飲みたくなるんだ。 苦い。 でも,その苦さが心に染み渡る気がする。 香りは…どこか懐かしい。 この一年の中で,この日だけが特別なんだ。 何も変わらない喫茶店,何も変わらないこのコーヒー。 でも,私の中では少しずつ

      • 雪だるまに託した嘘

        冬の寒い朝,雪が静かに降り積もる中, ふと立ち止まり,昔を思い出す。 最近では独りで過ごすことが増えたが, この日は特別だった。 目の前にある小さな雪だるまが,心を揺さぶる。 数十年前,大切な人がいた。 二人は寒い冬の日,オレンジ色の夕陽が街を包む中, 雪だるまを一緒に作った。 その時,彼女に「ずっと一緒にいる」と約束した。 しかし,約束は果たせなかった―― 彼女には別の人生が待っていたのだ。 彼女が去る時,その本当の理由を言わなかった。 自分の弱さや恐れを隠し,「大丈夫だ

        • 嘘と雪の記憶

          冬の夕暮れ, オレンジ色の空が一面に広がる。 雪がしんしんと降り積もる中, 小さな雪だるまを作り終えた少年が一人, 寒空を見上げていた。 「こんなに寒いのに,どうして嘘をつくんだろう?」 と,彼は小さな声でつぶやく。 彼は友人に 「一緒に雪だるまを作ろう」 と誘われたが,待てど暮らせど友人は来なかった。 昨日の夜,ふざけたような口調で 「絶対行くよ」 と言われた言葉が嘘だと気付くのに時間はかからなかった。 けれど,少年は怒ってはいない。 ただ,なんとなく寂しいだけだ

        10月の風と君の記憶

        マガジン

        • 蛍火の誓い
          6本
        • 風鈴の響き,再開の夜
          3本

        記事

          夕暮れの 冷たき風に 影伸びる

          夕暮れの 冷たき風に 影伸びる

          虫の声 夜に響いて 月高し

          虫の声 夜に響いて 月高し

          秋風や 木の葉舞い散る 道しるべ

          秋風や 木の葉舞い散る 道しるべ

          コスモスに揺れる

          夕暮れ時,秋桜が風に揺れる公園のベンチに,一人座っていた。 ピンク色の花々が夕日に染まる姿は, まるで恋人たちが交わす甘い約束を思わせる。 今日が「コスモスの日」だと知っていても, 私には交換する相手はいない。 そよ風が髪を優しく撫で,影が徐々に長く伸びていく。 ふと,手元にある一輪の秋桜を見つめる。 誰かのために贈る予定だったわけでもなく, ただ気まぐれに花屋で買ったものだ。 けれど,その淡いピンク色の花びらに, どこか自分自身の孤独を重ねてしまう。 「愛を確

          コスモスに揺れる

          秋桜が揺れる夕暮れに

          夕暮れが静かに街を包み始めた9月14日 空は薄いオレンジ色に染まり, 柔らかなそよ風が秋桜の花びらを揺らしていた。 ピンク色の秋桜が並ぶ道を歩く千夏は, 手に小さな花束を握りしめている。 今日は「コスモスの日」 ホワイトデーから半年が経った記念日だ。 彼女は,恋人の大樹とこの日を祝うために待ち合わせていた。 二人の関係は穏やかで, どこか自然に寄り添い続けるようなものだった。 それでも,心のどこかで不安を抱えていた。 自分たちの愛が本物か, これからも続けていける

          秋桜が揺れる夕暮れに

          エピローグ

          次の年, 彼岸花が咲く季節に, 薫は再び森を訪れる。 そして, 再び蒼と出会うための誓いを胸に, 夜空を見上げる。

          エピローグ

          彼岸花と別れ

          薫は涙を流しながら蒼に抱きつくが, 彼の体は徐々に消え始める。 蒼は 「また、彼岸花が咲く頃に」 と告げ,消えていく。 薫は蛍が舞う中, 彼岸花の咲く場所に立ち尽くし, 静かに夜を見つめる。 彼女の目には一筋の涙が流れるが, その瞳には,再び会える希望が灯っている。

          彼岸花と別れ

          真実の告白

          だが, 薫は蒼に問いかける。 「なぜ、突然消えたの?」 蒼は少し黙った後, 「実は…」 と真実を語り始める。 蒼は病にかかり, 薫を苦しめないために遠ざかったこと, そして彼岸花が咲く季節にだけ, こうして戻ってくることができる存在になったことを 告白する…。

          真実の告白

          流れ星の願い

          蒼と薫は再会を喜びながら, 手を繋ぎ夜空を見上げる。 その瞬間, 流れ星が夜空を横切る。 蒼は 「この瞬間を永遠に」 と願いを込めて, 薫の手を強く握る。

          流れ星の願い

          蛍の光に包まれる再会

          薫が蛍を眺めていると, 突然, 懐かしい声が響く。 「薫…」 振り返ると, そこには蒼が立っていた。 驚く薫に, 蒼は 「戻ってきた」 と微笑む。 二人は再び蛍に囲まれ, 静かな夜の中で再会を喜ぶ。

          蛍の光に包まれる再会

          夜の森

          深い森の中, 月明かりがほのかに差し込む夜。 蛍が静かに舞い, 暗闇を柔らかく照らしている。 薫は この場所でかつての恋人蒼との思い出を胸に, 佇んでいる。 二人は昔, この森で蛍を見ながら永遠の愛を誓い合った。 しかし, 蒼は突然, 薫の前から姿を消してしまった。

          夏の口笛

          夏の風がそっと頬を撫でる, あの夜のキャンプ場。   焚き火の前で出会った瞬間, 胸の奥で小さな火が灯った。 悔し涙がこぼれた夜, 君は静かに口笛を吹いた。   その音色は, 切なさと共に夜空に溶け込んでいく。 今はもう, 手を伸ばしても届かないけれど, 夏の終わりに響くあの口笛が, 心の中で永遠に鳴り響いている。   それが,私たちの最後の思い出。

          夏の口笛