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雨と唾液

雨が降っている。
雨が降っている。
雨が降っている。

切れ目というものがない。
次から次へと降る。
庭の犬は、生まれてこのかたいいことなんて一つだってなかったという顔をしている。
犬小屋の中で可能な限り身を丸く縮めている。

春先の雨は、それがしつこくても、寒くても、降り止まなくてもやや甘やかな感じがする。

カレーを作る。
カレールーで作るいわゆるカレーライスをいつからか夫は好まなくなった。
だから作るのはルーを使わないカレーだ。
一番かんたんなのがチキンカレー。かんたんで安い。

鶏もも肉を切って、2、3日前から漬け込んでおく。
漬けるのはプレーンヨーグルト、にんにくと生姜のすりおろし、塩、カレー粉を混ぜたもの。


厚手の鍋にココナツオイルと月桂樹の葉、とうがらし、シナモンスティックを入れて火にかける。
なかったらサラダ油でいいし、葉っぱ類もなかったら入れなくてもいい。でもあると気分が高まる。気分は大事だ。

そこに玉ねぎのみじん切りとにんにくと生姜のみじん切りを入れて炒める。なるべくたくさん炒める。弱火でがまんしながら炒める。このあたりから飽きてくる。飽きてくるけど、がまんする。


この間から気になっていたことを考える。
「すてきな感じの女の人はけっこういるのに、すてきな感じの男の人はいない」ということについて。

すてきな感じの人というのは、顔の造作ではもちろんなくて、おもしろそうで自分の頭でものを考えている感じの人だ。どうしてだか男の人でそういう感じの人をあまり見ない。
電車に乗ったときなどに、くまなく車両を眺めてみるけれどちっともいない。

もしそういう人がいたら、今何を考えていたのかとか、昨日の晩ごはんはなんだったか、電車に乗るのは好きかとかそんなことを聞こうかと想像する。
なんでもいいのだ。おもしろい人に何かを聞いたら、たとえそれがなんであったとしてもおもしろい答えが返ってくるに決まっている。

この辺りでだいぶ玉ねぎが炒められてきた。
次に友達に会う予定はいつだったっけ、とGoogleカレンダーで確認する。
その時にぜひ話したいことはなんだったっけと考える。
そうだ、そうだ、歌謡曲における挽歌の少なさについてだった。
それから文旦はすごくおいしくて、汁気が少なくてだいすきだということについても考える。

炒めた玉ねぎにカレー粉を入れる。だいたい匙に3杯入れた。
ココナツオイルをおまじないみたいに少し加えて、また少し炒める。
それから漬け込んでおいた鶏肉を加えて、トマト缶も入れる。
塩を入れて、煮込む。

もうカレーはできたとみなしてもいいくらいに、見た目がカレーだ。


雨が降っている。
雨が降っている。
雨が降っている。
唾液について考える。
唾液はぬるい。いつも口の中にあるのに、口から出たとたん不浄な感じがする。
ぺっ、と吐き出された唾液はたとえ自分のものであっても再び口に入れるのに躊躇する。
ただし赤ちゃんの輝くようなよだれは、それほど汚く感じない。
キスという行為においては、かなりすきこのんで唾液を交換したりする。

雨が降っている。
雨が降っている。

たぶん唾液よりこの雨の温度は低いだろう。
もう少ししたら、唾液よりぬるい雨になるかもしれない。
カレーができた。
食べなくてもおいしいことがわかる。
わたしの作るカレーはいつもおいしい。

雨が降っている。
雨が降っている。

わたしが死んだら、わたしの唾液はどうなるだろう。
唾液もひどく冷えるのだろうか。

雨が降っている。
雨が降っている。
雨が降っている。

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