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冴えない僕は高嶺の花がとても好きで、調子狂ってばかりだ。(『恋の行方はフルスイングの果てに』山羊メイル著)

作品脚注にある通り、2019年公開の映画と、日本で投げてる野茂英雄(近鉄バファローズ 1990 - 1994)が、同じ世界に存在します。おまけに携帯やスマホを持ってるから否かが分からないので、作品世界は令和の現代にも平成初期にも見えて、不思議なテイストです。

おそらく、俳優やアイドルを野茂英雄の世代(平成初期)に合わせると、現代に書く意味合いが変わってしまうから、こうなのかなと受け止めました。(例えば、平成初期に設定したら、懐古的な作品になりますよね)。芸能界と野球界で時の流れが違っても、作品が成立するのが、創作の魅力です。著者がOKといえば、OK。

この作品は、山羊さんの作品の大切な要素、洋楽が登場しないです。三枚目の主人公と合わないからかもしれない。彼は音楽より「効果音」が必要な人だから。ドリフの金だらいとかの、アレです。にもかかわらず、めげずに頑張るので、強いハートの持ち主です。

ヒロインは現代国語の佐内先生。頭はキレるし、生徒をはじめファンの多い女性。彼女の魅力は、「そうか主人公は、ヒロインが好きなんだね」と分かれば、それで充分です。あ、ちゃんとチャーミングに書いてありますよ! 何で「充分」かというとーー

この作品の一番のご馳走は、人を好きになると調子狂う主人公の三枚目っぷりを、愛でることだから。脇役だと自覚している人が、ちゃんと主役になる物語。三枚目だけど、主役は主役。演技なら、二枚目より難しいかも、三枚目。

「清原のどんなところが好きなの?」
「試合中に泣くところ!」
周りがどっと沸く。清原は読売ジャイアンツに行きたくてしょうがなかったのだけど、ドラフトでジャイアンツに指名されずに泣く泣く西武に行く。そして日本シリーズで西武はそのジャイアンツを倒して日本一になる。あと一人アウトを取れば優勝の時、一塁を守っていた清原は試合中にも関わらず号泣する。僕はとんでもなくかっこ悪いと思うんだけど、佐内先生とその小4女子は清原を、かわいい、かわいいと盛り上がる。
https://note.com/yagicowcow/n/n2422153df359

具体的にはこういうことです。引用箇所を、格好悪いと主人公は認識しているし、そう見る他者もいるでしょう。でも、万感胸に迫ることを察するから、清原が見せた人間的弱さが、清原の魅力のありかを教えてくれますよね。

(それにしても、小4女子、君は何者だ)

もともとパッとしない、誠実だけど器用じゃない主人公が、「そんな綺麗で聡明な女の子と釣り合う訳がないんだよ、僕は。」と思う、高嶺の花に恋をしたら、調子狂って喜劇が起きるのは自然なことです。1人ドタバタ喜劇。録画しておいて、後日、本人に見せたら「コントかよぉ」って、膝から崩れ落ちるでしょう。

しかし、主人公の喜劇をあざ笑う人はいないし、佐内先生は、主人公の一人喜劇状態を、おそらく清原の号泣と同じように扱えて、主人公の魅力を納得いくまで吟味出来たのでしょう。

「鈍い」と不貞腐れた場面で、おそらく佐内先生の気持ちはほぼ決まってたのではないかな。

「魅力って、特別な人だけが持つわけじゃないよね」と、いつの間にか応援していた主人公の生き方から、教えられた気がするのです。

そして、これは山羊さんから恋愛する人達へのエールでもある。怖くても、格好悪くてもいいから、バッターボックスに立って、フルスイングしておいでって。

作品の性質上、映像化は極めて難しいけど、この作品は泣いたり笑ったりして楽しめる、青春恋愛コメディとして、映画化して欲しい。色彩の綺麗な方で、コメディ部分の切れ味とリズムを表現出来る監督って、どなたが思い浮かびますか?

👆ヘッダーはソエジマケイタ(キャラ・写真・似顔絵)さんから、お借りしました。

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