『かきならせ、空!』立ち読み支援note

涼雨零音さんの新作です。noteや青空文庫や電子書籍は素晴らしいけど、紙の本のようにパラパラめくって好きな箇所と出会うような立ち読みはしにくいですよね。だから、それを行いやすくすることを願うnoteです。

久しぶりに父と並んで歩くのは嫌ではなかったけれど、なんだかちょっとだけ、間違った場所にはまってしまったパズルのピースみたいな気がした。

(中略)

「どうせそうしょっちゅう買い換えるもんじゃないんだから。値段で妥協しないで空楽が気に入るやつを選びなさい」

https://note.com/rain_suzusame/n/n8b8820284997

夢と野望と現実、友情と努力など色々あるのですけれど『間違った場所にはまってしまったパズルのピースみたい』という一行が、好きです。


「カッコイイな、雫は。わたしよりよっぽどロックだね」

「やってるのはテクノだが」

https://note.com/rain_suzusame/n/n14a7813d3275

バンドを組むには仲間と出会う必要があります。努力や才能も意識したばかりだけど、仲間を見つける過程で先入観にも気づいていきます。


 空楽が歌い、歌のメロディが途切れるところに六弦のベースが上がってくる。高音部で遊んだベースは次のメロディへとバトンを渡して低音側へ戻っていく。降りていったベースを迎え入れてドラムが迫力のビートを鳴らし、空楽は導かれるようにギターのコードを鳴らす。なにも考える必要がなかった。アレンジを理解しつくしたそれぞれの音たちが空楽を運んでくれた

https://note.com/rain_suzusame/n/nf69b089b082b

切磋琢磨して才能が花開くの、美しいです。
というか、涼雨さんのバンドの言語化凄くないですか? 時代劇作るのに時代考証しますが、音楽の造詣が深い涼雨さんは「時代考証」に相当することをご自身でできるのが強い。

「あのな。心の準備なんてもんを待ってたらパッションは冷めちまうの。行くぜと思ったらもう行ってるぐらいじゃないと」

https://note.com/rain_suzusame/n/nc93655369df7

「もちろんなんだって作るんだけどよ。そのままじゃ冬寒すぎてお陀仏なんだよ。冬も練習すんならある程度断熱して、なんか暖房設備も入れないとなんないな。これ下が地面むき出しで基礎も無いからさ。このままじゃえれえ寒いんだよ。断熱ったって壁ぺっこぺこだからさこれ。最低でも体育館ぐらいの壁にしないとな。あとはどこまでやるかの相談だな」

https://note.com/rain_suzusame/n/nc93655369df7

「お陀仏!」。脇役の「おじさん」達もキャラと語彙が異なる。いいですね。お話は進み主人公は成長しているからこそ見える不安も自覚します。
バンドの仲間が協力して成長することを、見守って協力してくれる頼りになる「おじさん」等。教えてくれるというより、妨げないように上手いこと支援してくれるのは、ポップミュージックの文化かもしれません。


空楽はあまりにも稚拙な録音を笑われることも覚悟していたけれど、みんな熱心に聞いていて誰一人笑うような人はいなかった。

https://note.com/rain_suzusame/n/n4a91e0e78624

バンドを初めて関係性が育ち出している象徴的な一行に思えました。


これが北高だと多分全員出してやっとB編成ぐらいだと思うんだよね。そうなるとユルいやつ許容できない感じになるんだよ。

https://note.com/rain_suzusame/n/n9e901402baa5

バンドだけでなく、高校生の人間関係の複雑さも丁寧に描かれます。青春の理想や思い出や憧れ以外も、重要。

芽里はわずかでもメロディに空白があるとマイクスタンドから離れ、ステージを歩いたり、リズムに乗って飛び跳ねたり、曲のキメに合わせてポーズを取ったりしていた。そのあざとい愛らしさは客席の盛り上がりを強力に牽引していた。サビに差し掛かるとギターから手を放して両手を上げ、頭上で手拍子を煽った。それまで拳を振り上げていた人たちも手拍子を打ち始めた。空楽も手拍子を叩きながら身体を揺すった。芽里は客席をまんべんなく見て時折ウィンクしたり、笑顔を見せたりしながら歌った。

https://note.com/rain_suzusame/n/n283c884503d5

超高校級の描写です。


「ああやってドラムの一つ一つの出音を調整していくんだよ。つまり客席に聞かせる音を作ってく、ってこと」

 鼓道が説明すると、空楽の横にいた璃安が頷いた。

「次、スネアください」

https://note.com/rain_suzusame/n/n8e0561a00c07

いつもの練習とは音の聞こえ方がまったく違ったけれど、足元のスピーカーから六弦のベースと瑠海のギターが聞こえ、背中には琴那のドラムが届いていた。空楽はこの音の中でなら存分に歌えると感じて、特に何も注文はしなかった。

https://note.com/rain_suzusame/n/n8e0561a00c07

楽器がうまいというのはどういう状態なのだろうか。バンドとしてうまいというのは、どういう状態なのだろうか。今の空楽にはまだ、納得できる説明は見つけられそうになかった。

https://note.com/rain_suzusame/n/n8e0561a00c07

三箇所引用しました。仕事の場面もあるし、バンドとしての成長と、成長したから見える次の課題など、音楽と青春が相補的に描かれています。

 そう言うと瑠海は壁にかかっていたホワイトボードに“チャリぜんぶかりてく るみ”と書いた。

https://note.com/rain_suzusame/n/n69316b8bf4f8

「君たちの演奏はとてもうまかった。それこそ、プロみたいだなと思った」

https://note.com/rain_suzusame/n/n69316b8bf4f8

演奏と芸術の境界線の話だと読みました。自転車で移動など、ティーンエイジャーの情熱とリアリティを描けるのも良い。第九話はこの作品の本質の一つだと思います。

「これきれいな感じに聞こえるけどかなり普通じゃないギター弾いてるね」

https://note.com/rain_suzusame/n/n9a20f3a854b7

個人ではなくバンド組んでるから、自己発見も成長もチームワークもセットです。自分たちが好きなアーティストの演奏を聴いて、『普通じゃない』ことを共有できることの豊かさ。


「おれはもともとベース弾いて食っていきたいなと思ってたからさ。このバンドでデビュー目指してくならそこに全力投球するし、このバンドがそういうの目指さないなら、おれはおれで演奏家目指しながらバンドやるし、どっちにしてもおれはプロを目指すつもり」

https://note.com/rain_suzusame/n/n5155fd8c7ae4

一人、心臓の強いメンバーがいます。進路の話。バンドで切磋琢磨して、その後どうしたいのかを考える時に、プロになることを信じて疑わない友達がいるのだから、迷いも深まります。


(引用の関係で省略)
永遠に続くような気がする、続いてほしいこの時間は決して永遠ではなく、高校生活はたった三年で終わる。その六分の一がもう、終わろうとしていた。卒業しても今みたいにバンドを続けることはできるのだろうか。瞼の裏に描こうとしてみても、今の空楽にはまだ、高校を卒業した自分たちを想像するのは難しかった。

https://note.com/rain_suzusame/n/n08293484e2e3

作品は完成しましたが、登場人物の物語は続きます。慣性の法則に似ています。例えばドラえもんでもナウシカでもいいのですけれど、フィクションで出会った存在は心の中にいて、遠くで暮らしていてなかなか会えない友達が元気にしてるかなと思い巡らす距離感で、ドラえもんやナウシカなど、フィクションのキャラクターのことを思うことがあります。フィクションなのに、もしかしたら友達よりも近い存在かもしれません。

涼雨さんをねぎらって欲しい。執筆して完成させたの凄い。
作品が合うなら、ピンと来た方は読んで勧めることをオススメします。

涼雨ユニバースは広大なので、思いがけない形で続きを読めるかもしれませんよ。

読み終えておかわりという続編を希望するとは、とんだ大食漢です😋

作品の読み方

第一話に全件リンク、記事ごとに続きへのリンクが用意されています。記事が公開されると反映される仕組み。

著者さんより


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更新履歴

2024/07/02 12:05 公開
2024/07/03 10:59 更新
2024/07/04 10:23 更新
2024/07/05 10:15 更新
2024/07/06 10:59 更新
2024/07/07 09:56 更新
2024/07/08 12:15 更新
2024/07/09 13:03 更新
2024/07/10 10:15 更新
2024/07/11 11:57 更新
2024/07/12 09:51更新



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