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異次元喫茶店

0.エピローグ


マスター、今日のコーヒーは何処産だい?

今日のはアウィーの東の市で見つけたよ。

最近はあの辺でよく漂流物が見つかるんだ。
どの世界のどの年代かはわからんが大きな積み荷が流れ着いて
その中に新鮮なコーヒー豆があったそうだ。

あんたもこの世界にきて長いんだろ。

そんなこともないさ、年という単位が生きているなら20年くらいか。
そうだなここは時間の流れが違う。場所によっても、階層によっても違う。
ここはさらに違う階層の狭間にあった物件を紹介してもらったのさ。
だから色んな星の色んな生物たちと交流ができる。
しかも過去か未来しかもわからない。お客は大抵一限さんだよ。
君のように100時間ごとに訪れたりしない。

僕は次元断層肯定装置を持っているからね。

なんと便利な道具だな。
そうでもないよ。ハズレを引くと水の中であったり宇宙空間だったりするのさ。
しかも固定できるのはこっちの世界と、もう1つの世界だけ。
たまたま君の店の裏口とつながってしまったという具合さ。

僕は君の世界にいけるのかい?

マスターはどうかな。ここにいる時間が長すぎるせいで、体と精神が分離してしまうよ。

君はきているじゃないか。

僕の仕事とは次元観察員だからね。経費で来れるのさ。ここには色々な世界の人々、いや生物たちと会話もできるしね。しかも彼らは次元を駆け抜けている先駆者たちだ。
君はその次元の橋渡しの途中にある一服を提供する喫茶店ってところさ。

そうか。じゃぁこの物件はレアなんだな。

まぁそういうこと。しかも店まで持っている。お金はとっているんだろう?

ひとまずはな。市ではお金というより物物交換なんだ。だからお金というわけではない。
前に甘美な美声を披露してくれる、アンタレスの皇女が星の歌を歌ってくれたよ。
他のお客さんも感激さ。あれは音なんだろうか。素晴らしい気持ちになった。

へぇそういうこともあるんだ。
でも、どうしてかな。僕がくる時はあまり、他にお客さんが見えないんだよね。

そりゃぁ。君自身が薄々気づいているんじゃないのかい。
君は消えかかっているよ。

おや。どうりで視界がぼんやりするはずだ。
上司が経費を削りやがったな。ここでコーヒーを啜って帰るだけだしね。
ここに来るだけでも都市の半日分のエネルギーが必要なんだ。
成果を出せなかった俺が悪いのさ。

じゃぁ君に最後にこれを入れてあげよう。
最高のコーヒーさ。
僕がいた世界で最後に手にいれてたコーヒー豆さ。

マスターはそういうと、ゆっくりと豆をひいいて、ハンドドリップで白いカップにお湯をゆっくりと注ぎはじめた。

香りがいいなぁ。

いいだろう。これは彼女が好きだったコーヒー豆さ。さぁこれが最後の一杯さ。

ありがてぇ。いつものとは違うな。なんか懐かしさを感じるよ。

そうだろうよ。君の世界の過去のコーヒー豆だからね。
もうそのコーヒーは君の時代にはないよ。島が海の中に沈んでしまったからね。

そうなのか。でもなんで俺の世界と同じと分かったんだい?

コーヒーを頼むのは、君のような地球人しかいないよ。
他のドリンクは君のような有機体には合わないのでおすすめしないよ。

ありがとう。君はなんでも知っているかのようにいうんだなぁ。

ああ、ちょうど先日、君の母君がおいでになったよ。写真を見せてくれからかね。
ほらこれを預かっている。

マスターは一枚の写真を彼に渡す。

なぜ、これを。これは10年前に家族で撮った写真だ。しかも母の棺に入れたはずだ。

ちょうど、あの世にいく途中じゃなかったのかな。

そうなのか。俺は死んだのか。。

生と死の意味は特にないよ。死を模索するのは生への固執さ。
死している人は生を模索しない。でも心残りはある。
だからここに立ち寄るのさ。
偶然はない。必然だからこそ、君はここに来たのさ。
生か死をきめるのは自分だよ。そうだと思ったとき、君という精神はこの回廊を通るだろう。そうするとまた会えるさ。今度は入口から入ってきてくれ。

。。わかった。そうするよ。

彼はカップのコーヒーを飲み干すと、見たことのない銀のコインをカウンタに置いた。

これは?

今日のお代さ。俺の世界で見つけた世界最後のコインさ。
今いる俺の時代ではお金は形を持っていないんだ。

なるほど。ありがたくもらっておくよ。

じゃぁ。俺はこの辺で。

また会おう。いつの日か。

ああいつの日か。

彼はそういうと、裏口のドアを開けてそっと出て行った。

マスターはカップを片付けながら、表扉の呼び鈴がなる音を聞いた。

やぁ君か。ずいぶん早いな。コインを取りにきたのかい。

いや。あの世界とおさらばしたからなぁ。ほんとにこの喫茶店があると思っていなかったよ。

ああ、君がコインを置いていってくれたからね。見つけやすかったんじゃないかな。
まぁ一杯の飲んでいきなよ。

まだとっておきのは出してないんだ。

マスターはそういうとコーヒーを入れ始めた。

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