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「ハイキュー!!」:新時代のスポーツ漫画

週刊少年ジャンプ連載のバレーボール漫画、「ハイキュー!!」が次週完結する。
約8年にわたって毎週自分を楽しませてくれたこの作品はどんな作品だったのか、自分なりにまとめたい。


自分と「ハイキュー!!」

ぼくは「ハイキュー!!」のそんなにいい読者ではなかったと思う。


ジャンプを15年くらい読み続けているので、そこに載っているおもしろい1作品として毎週読み続けてきた。

ライバル高校を含め敵味方全てのキャラクターにドラマを付与しようとする態度、ホラー漫画出身ということを色濃く感じさせるゾクゾク演出、キャラクターの「成長・変化」をバレーのプレイの「成長・変化」とガッチリ組み合わせる手腕。


毎週ジャンプで読むだけでも十分面白く、感動させられてきた。


どハマり、とは言えない程度の熱で楽しんできた。
事情が変わったのは今年4月、コロナ禍で約30巻までの話数がジャンプ+で無料開放されているのを一気読みした時だ。


一気に読むことで改めて感じたストーリー全体としての完成度に大いにくらい、気付いたら漫画を全巻購入していた。(集英社の掌で踊るのが一番楽しい)


全編通じて中だるみの時期が一切ない作品だとは思うが、特にこの作品のコアの部分のメッセージが表立って表現される直近数巻の内容は、スポーツ漫画の新しいスタンダードなる、とさえ思った。




現代とスポ根

現代はスポ根と相性が悪い時代だ、と思う。


厳しい指導はパワハラとして糾弾されるし、限界を超えた努力も物語の中で称賛するのは難しい。


「ハイキュー!!」がこれまでのスポーツ漫画と明らかに違うと感じたのは体の不調に対する態度だ。


スポーツ漫画で体の不調といえば、スポーツに情熱を注ぐ人の「今の煌めき」を演出するために使われてきたように思う。


「ROOKIES」でも「MAJOR」でも「SLAM DUNK」でも。


この先のことなんて考えない、「今」にかける姿勢はスポーツ漫画の大きな感動のポイントだった。


「スラムダンク」の山王戦での名シーンがまさにこうした演出の代表だろう。
主人公・桜木花道は最終盤、背中の怪我に襲われる。
出場が危ぶまれる中、桜木が放った台詞はバスケットマンとしての覚悟を端的に象徴する台詞として描かれる。

オヤジの栄光時代はいつだよ…
全日本のときか?
オレは……
オレは今なんだよ!!

「スラムダンク」31巻

不良だった桜木が初めて出会った「全てをかけたい」と思えるもの。怪我を押して出場するこのシーンはスポーツ漫画屈指の名シーンだと思う。


多少ネタバレになるが、「ハイキュー!!」でも高校編の最終盤、主人公・日向翔陽が体の不調に襲われる。日向に出場停止を伝える先生のセリフはスラムダンクの名台詞と好対照になっている。

今これ以上君を試合に出すことはできません。
(中略)
君は将来金メダルを取ると言った。
何個も取ると言った。
そして君は今
「がむしゃら」だけでは越えられない壁があると知っている。
その時必要になるのは知性・理性・そして思考
日向くん
今この瞬間もバレーボールだ
勝つことを考えてください

「ハイキュー!!」41巻


「今の煌めき」に全てをかけることを否定し、「このあと」バレーボールを続けていくために考えることも「今この瞬間もバレーボールだ」とスポーツ漫画の枠組みの中に組み込んでしまう




「わたしはわたしのままでいい」と思えるには

「がむしゃら」に「全てをかける」こともよしとしないこの作品は何に価値を見出すか。端的に表したセリフがある。

挑む者だけに
勝敗という導(しるべ)とその莫大な経験値を得る権利がある

今日
敗者の君たちよ

明日は何者になる?

「ハイキュー!!」42巻

「ハイキュー!!」が何より価値とするのは、勝敗でもなく、全てをかけた一瞬の煌めきでもなく、挑むこととそれによって得られる経験値だ


何かに挑戦することで、結果にかかわらず経験値を得て、人は変わっていく。

変わった先は、挑む前に抱いていた理想と同じとは限らない。


主人公・日向は小さな体で大きな相手を倒していく「小さな巨人」に憧れ、それを目指して挑んできたが、物語の終盤「小さな巨人」という呼称にもうそんなこだわりがないと気づく。
不本意に呼ばれ始めた「最強の囮(おとり)」という名前を自分で肯定できるようになる。


理想の自分かどうかに関係なく、挑んだ人だけが自分がしっくりくる自分に変わっていけるのだ



「あなたはあなたのままでいい」ということは近年本当によく言われるし、その通りだと思う。

でもだからと言って「わたしはわたしのままでいい」とそのまま思えるかは全く別の話だ。

理想と違うわたしをこれでいいんだと思えるには、きっとたくさんの挑戦とそこから得られる経験値が必要なんだと思う。

社会人になって、「挑むこと」なんてすっかり忘れているけど、「ハイキュー!!」を読むたびにちゃんと挑まなきゃな、と思い出す。

スポーツ全然やらない自分にもバチバチ刺さる、最高のスポーツ漫画でした。




どんな最終回になるのか分かりませんが、心して読みたいと思います。

サイトウでした。




2020年7月20日
最終話を読んだので追記。
ネタバレ。

最高だった。

全コマ語りどころだけど一つだけ。

アオリ文でラストページと見せかけてもう2ページ続く演出最高でした。

最高の舞台で完璧に物語を回収しても、この作品には続きがある。
サブタイトルは「挑戦者たち」。

「達成」ではなく、どこまでも続く「挑戦」をこそ祝福するこの作品らしい最高の終わり方でした。

長い間楽しませてくれてありがとうございました。





@いえもん
6畳神話、書きたいっすね!笑
自然の中でボーッとできるのいつになるんだろうね。

@きっちゃん
競馬連れて行ってくれー!って言えるのもいつになるんでしょうか。
そんなんばっかりですね、もうやだ。

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