松雪泰子さんについて考える(05)舞台『吉原御免状』

*このシリーズの記事一覧はこちら*

*松雪泰子さんについて考える(51)「歌は語れ、セリフは歌え」*

松雪さん出演シーンの充実度:8点(/10点)
作品の面白さ:8点(/10点)
上演年:2005年
視聴方法:DVD
 
※以下、多少のネタバレを含みますが、決定的なオチや展開には触れないようしております。
※上演当時に会場で観たわけではなく、DVDで視聴した感想です。
 
松雪さんの舞台出演2作目にして、劇団☆新感線初出演となった『吉原御免状』。
 
劇団☆新感線は、業界内では動員力が桁違いの、言わずと知れたモンスター劇団。ドラマ・映画の主演級を客演に招き、それがまた動員力に拍車をかけ、キャパの大きい会場でとんでもない数の公演数を重ねる。しかもそのほぼすべてを完売させる、キラーコンテンツだ。
 
人気なのは出演者だけではない。笑いあり、派手なアクションあり、オリジナルの歌あり、ダンスあり、殺陣あり、豪華な舞台セットあり…。とにかくここでしか観られない、スケールの大きいお祭りのような豪華さを誇る。
 
そんな新感線の王道のような舞台を、2010年代に劇場で2~3作品観劇したことがあるが、正直、個人的にはどれも好きになれなかった。完全に個人の好き嫌いの問題だが、どこで笑えばいいのか、どこに感動すればいいのか全く分からないまま、3時間近くに及ぶ上演時間を退屈に過ごした覚えがある。ウケねらいのシーンはすべて空振りに見えたし、ストーリー展開も深みを感じなかった。出てくるキャラクターもみな軽薄に感じた。

重ねて言うが、以上はあくまで個人的な感想であり、むしろ劇場を埋め尽くす観衆は、新感線の持つ普遍的な面白さの証左であるとも思う。どちらが正解でも不正解でもないだろう。
 
しかし、本作『吉原御免状』に限っては、歌なし・笑いネタなしの異色作。江戸時代の吉原を舞台にした、おふざけなしの時代劇。いつもの新感線が好きなファンからは賛否両論ある作品のようだが、個人的にはこのような作品こそ面白いと思った。新感線には、この路線もたまには取り組んでほしいが…。
 
では、作品の中身について。
 
主演は堤真一さん。宮本武蔵の薫陶を受けた侍・誠一郎役。とある目的で江戸・吉原に赴くのだが、そこに登場する遊女・勝山太夫役が松雪さん。
 
物語の主軸は、吉原の放逐を企む集団と誠一郎(堤)との闘いだが、サブストーリーとして、誠一郎(堤)と勝山(松雪)の色恋沙汰、誠一郎(堤)の出生の秘密、吉原と幕府・将軍家の隠された関係性等が展開していく、重厚な内容。各登場人物の背景がしっかり描かれていて、深みがある。そのぶん、説明しなくてはいけないことが沢山あるので、役者のセリフがやや早口に感じることが多い。これは新感線作品あるあるだと思う。
 
吉原が舞台の中心なので、遊郭のセットが組まれているが、これが素晴らしかった。回転盆のステージをうまく使って、奥行きを感じさせる、本物さながらの見た目が再現されている。
 
松雪さんの演じる遊女(太夫)は、艶やかな花魁でありながら、吉原を攻める集団とも関係性を持つという、二面性のある役柄。それゆえ、一人二役的な演じ分けが堪能できて面白い。ある場面では官能的に、またある場面では任侠的に。
 
舞台ということで、映像作品のときと声が全然違う。舞台ならではの張り上げた発声によるものだと思うが、役作りの一環で根本的に声色を工夫している感じがする。それだけでなく、シーンに応じて声色に変化を持たせている。これはなかなかできないと思うし、現に、この舞台に出ている芸達者な役者陣の中でも、ここまでしている人は見当たらない。
 
劇中、官能的なシーンが何度かあり、松雪さんが体当たりの演技を見せているのも見所だ。ドラマ・映画では味わえない、舞台ならではの気迫を感じる。
 
松雪さん以外の役者も豪華。新感線ではお馴染みの古田新太さん・橋本じゅんさん・高田聖子さん・梶原善さんは手慣れた立派な演技。オヒョイさんこと藤村俊二さんも秀逸。
 
主演の堤さんも悪くなかったが、個人的には侍姿・和装よりも、シャキッとしたスーツ姿の方がやはり似合うと思ってしまった。終盤の鬼気迫る演技はさすがだったが。
 
それにしても、堤さんと松雪さんの共演は、どの作品も見応えがある。映画『MONDAY』(2000年)での官能的でハードボイルドな共演シーンも、『ビギナー』(2003年)でのコミカルな会話劇も良かったが、この『吉原御免状』での共演も良かった。映画『容疑者Xの献身』(2008年)も、終盤の共演シーンが素晴らしかった。どの作品の共演シーンも、全く異なるテイストなので、見比べるのも面白い。(ちなみに、舞台『るつぼ』(2013年)は今となっては観る術がなく残念。)
 
松雪さんは本作を皮切りに、数年おきに劇団☆新感線からのオファーを受け(むしろ本人が出演を希望しているらしい)、最近では2022年『神州無頼街』に出演している。新感線作品は「ゲキ×シネ」として映画館で上映されたり、オンデマンド配信で視聴できたりと、過去の作品でも観るチャンスが残されているのがありがたい。近々、『SHINKANSEN☆RX 五右衛門ロック』(2008年)についても書こうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?