ドラマ・映画感想文(20)『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

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個人的評価:9点(/10点)
公開年月:2024年6月(アメリカでは2023年)
公式サイト:https://www.holdovers.jp/


※結末に関するネタバレを含みますので、ご注意ください。


ハートウォーミングな良作。

キネマ旬報の専門家レビューで、3人それぞれ★4、★4、★5。まずハズレはないと思いながら映画館へ。高評価に納得。

1970年アメリカ、ボストン郊外。寄宿制の男子校。嫌われ者同士の生徒と教師の交流。クリスマスから年越しを、学校で過ごすことになった二人が、厭世的な生き方を見直していく。

男子校にいると、屈折した人格形成になりがち。実体験としてそう思う。だから、母校で教鞭をとるハナム先生(ポール・ジアマッティ)が、偏狭で杓子定規な性格の持ち主として描かれているのはおおいに納得。寮や教室で堂々と下ネタや汚い言葉が繰り広げられる様子も懐かしい。このへんはリアリティある。というか、洋の東西を問わず男子校ってこうなんだなぁと。ついでに言うと、我が母校でも、この映画と同じように卒業生が教師として戻ってくる文化が根強い。

ここに通う問題児のアンガス・タリー(ドミニク・セッサ)は、複雑な家庭環境が暗い影を落としている。そこに男子校ならではの窮屈さが加わって、周囲と溝ができてしまう。

タリーの性格、考え方、生い立ち…。それが、共同生活を送る間に段々明らかになってきて、ハナム先生は次第に自身を重ね合わせるようになる。ベタといえばベタな展開だが、過程が丁寧に描かれるため、引き込まれる。

前半に出てきた手袋のシーンは、結末を暗示していたような気がする。ある生徒が、片方の手袋を奪われ、投げ捨てられる。「両手同時より、片手の手袋だけ奪われる方がみじめな思いが強くなる」と追い打ちをかけられ、その生徒は残っていた片方の手袋を川に投げ捨てる。小川を流れていく手袋。このように両手の手袋が引き離されてしまうのは、タリーとハナム先生が離ればなれになることを示唆しているようであり、川をポツンとあてどなく流れていく映像は、ラストシーンのハナム先生が一人で車に乗って学校を去っていく姿と重なる。

タリーとハナム先生の別れ。しかし、別れる前に2人は固い握手を交わす。バラバラになった「手袋」と対照的に、2人の「手」は固い握手で一つになった。その握手は、2人が心の傷を回復した証であるとともに、信頼の絆でもある。素晴らしいシーンだった。ポール・ジアマッティの表情が見事。


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