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結婚しない(できない)若者たちについて

少子化対策については、僕もいろいろと考えてみたし、いくつか記事も書いた。明快な答えに行き着いたわけではないし、うまい処方箋があるとも思わない。

子どもを持ちたいカップルをサポートする施策は必要だが、そもそも子どもを持ちたくても持てないカップル、それ以前に結婚したくてもできない人たちが一定数存在することについて、何らかの対応策を講じないことにはどうしようもない。

日本では戦後に「ベビーブーム」と呼ばれる新生児が急増する現象が計2回起きている。「第1次ベビーブーム」は、戦争直後の47年から49年で、3年間で出生数250万人超、合計約800万人程度が出生しており、この期間に生まれた世代が「団塊の世代」である。さらに「第2次ベビーブーム」が、71年から74年までの出生数200万人を超える時期であり、この期間に生まれた世代が「団塊ジュニア」である。

本来ならば、「団塊ジュニア」世代が出産期を迎える90年代半ば以降に「第3次ベビーブーム」が起きるという予測もあったようだが、バブル景気崩壊以降、後に「失われた30年」と呼ばれる経済停滞期が長々と続いたせいもあってか、「第3次ベビーブーム」が起きることはなく、経済的な事情や価値観の変化の影響もあり、生涯未婚を貫く人たちや、結婚はしても子供を持たない夫婦というのが珍しくもない時代が到来することとなった。

幻で終わった「第3次」において、もしかしたら「生まれていたはず」の女性がそもそも存在せず、「少母化」が確定した時点で、「戦う前から既に負けている」「勝負あった」という専門家もいる。少なくとも今後何十年に渡って出生数が減ることはあっても増えることはない。人口動態に関しては、「ウルトラC」的な特効薬は存在しないのだ。

「合計特殊出生率」が、22年に1.26になったとのことであるが、分母には未婚女性が含まれている。出生数を増やそうと思えば、①未婚女性の婚姻数を増やす、②婚姻しなくても、子どもを持てるようにする、③婚姻/非婚姻含めた男女のカップルがより多くの子どもを持てるようにする、といった施策が必要になる。

③に関しては、結婚した夫婦1組あたりの出生数は長年2人近くあるというデータがあって、それは「完結出生児数」(=結婚持続期間(結婚からの経過期間)15~19年夫婦の平均出生子ども数)を見ればわかる。近年は2をわずかに下回っているものの、結婚した夫婦はだいたい子どもを2人くらいはもうけているんだということになる。

「だったら、あと1人産んでもらって、子ども3人を当たり前にすれば良いやん」という意見が出そうであるが、女性の平均初婚年齢が約30歳になっていることを考えれば、そこから3人出産をするというのは簡単な話とは思えない。

それでも、ポジティブに考えるならば、結婚した夫婦は、平均して子どもを2人くらいはもうけるものだということなので、とりあえず①を推進することで、若い未婚男女の婚姻を促進する、さらに②に書いたように、正式な婚姻/非婚姻に関係なく、生まれた子どもに対する福祉を手厚くするといった施策は有効な打ち手であろうし、何らかの方法で女性の平均初婚年齢を今よりも少しでも早めることができれば、③に関しても少しばかり期待できそうである。

つまり、「少子化対策」とは、突き詰めるならば、「婚姻促進政策」である。否、もっと身も蓋もない言い方をするならば、「子づくり促進政策」、あるいは「若年男女カップリング政策」に他ならない。若い男女をできるだけ若年段階でカップリングさせられるかどうかが、その後、子どもを多くもうけさせることができるかにも大きく影響することになる。

が、しかしである。行政主導で官製の結婚相談所みたいなものを運営したとして、うまくいきそうなイメージはまったくない。おカネの無駄遣いになりそうである。数多あるマッチングアプリの類も玉石混交であり、とてもまじめな出会いの場を提供しているとは思えないようなものも多くあるという。そういうのに補助金をばらまくのも無駄である。昔であれば、コミュニティに、適齢期の男女をくっつけるのが趣味みたいな「お節介おばさん」がいたらしいが、核家族化が進んだ都市部でそういう役割を担う人がいるとは思えない。

YouTubeで「若者たちのホンネ」等を見ると、今の若い人たちが結婚を躊躇う主たる理由としては、やはり生活面での不安が大きいことがわかる。男女ともに言えることだが、非正規雇用のような不安定な身分だと、将来設計が難しく、結婚や子づくりに踏み出せないという話である。女性-非正規雇用だと、育休のような制度を事実上利用できず、一旦退職したら、再雇用の保証がないというケースも多い。共働きを前提としなければ生活できないとすれば、これでは安心して子どもをつくる気にはなれないだろう。

とはいえ、「じゃあ、正社員化を推進すれば良い」というのは現実的ではない。日本の正社員(正規雇用者)は、既にかなり身分保障されすぎなくらいであり、一旦、雇われれしまうと、働いても働かなくても、企業としては簡単にクビにできず、不稼働資産化するリスクが高い。だからこそ雇用に対して慎重にならざるを得ないのだ。したがって今後の進むべき方向性としては、正規雇用と非正規雇用が境界線が今よりもアバウトになり、シームレスになっていくことになるだろう。

となると、若い世代の生活面での不安要素を取り除く効果的な方法というものはない。むしろ、生活面で不安があったとしても「何とかなる」社会にするしかない。

1つのヒントは、いわゆる「マイルドヤンキー」たちである。出身地からあまり移動せず、幾つになっても地元の「コミュニティ」を大切にしている連中のことを意味する(なんだか呼称がよろしくないが、決して蔑視しているつもりはない)。彼らは総じて若年で結婚して子どもをもうける。「マイルドヤンキー」には子だくさんが多い。僕の近所にも一定数の「マイルドヤンキー」がいる。うちの子どもの小中学校の同級生たちにもいる。30代前半で子ども3人とか、既に結婚2回目、3回目というツワモノまでいる。シンママもいる。彼らを見ていると、日本が少子化に悩んでいることを忘れてしまう。

彼らが若くして結婚して、子どもをつくる背景には、「社会的包摂性」の枠組みの中にいるということがある。ウチのエリアは大阪市内のかなり中心部に位置する住宅地であるが、「マイルドヤンキー」たちは近隣に双方の親の家もあるし、友人・知人も多い。場合によっては、二世帯住宅で親と同居しているパターンもある。仮に夫婦そろってあまり安定的とは言えない仕事をしていたとしても、周囲のサポートがあれば何とかなると思うのだろうし、実際に何とかなっている。都市部ではなく地方に行けば、二世代、あるいは三世代同居の比率はもっと高くなる。共働きの比率も高い。祖父母や両親が子育てをサポートしているからであろう。また1人頭の稼ぎは大したことなくても、家族皆んなが働けば、世帯収入としてはそれなりの稼ぎになるはずであるし、誰かが失業しても路頭に迷うことはない。

とはいえ、核家族化が進んだ都市部において、「コミュニティ」復活をめざすぞというのは、現実的な話とは思えない。地方だって、確実に過疎化が進んでいるのである。それに「マイルドヤンキー」は、ある意味、地元のカーストにおいてはわりと恵まれた階層なのである。彼らの多くは、何世代も前から地元に定住しており、当然のことながら持ち家があり、地縁・血縁に守られている。地方でも「社会的包摂性」の枠外の人々は一定数存在するし、そうした人たちは「マイルドヤンキー」にもなれないのだ。

そうなると、失われた「社会的包摂性」を代替する機能を、いろいろなやり方、いろいろな担い手で補完していくしかないということになる。繰り返しになるが、「少子化対策」とは、「子づくり促進政策」「若年男女カップリング政策」である。そのためには、晩婚化、未婚化の背景になっている原因を1つ1つ潰していくしかない。単純な総花的なバラマキ対策は無意味であるし、おカネの無駄遣い、選挙対策でしかない。

はっきり言えば、あまり社会的に恵まれない階層に対して、より多くの手を差し伸べるということである。正式に婚姻関係を結ぶかどうかにかかわらず、男女の出会いというものは、多くの場合、同じような階層で完結する。高学歴で安定した仕事に就いているような階層に属する男性は、同じような階層の女性と出会う確率が高いし、その逆もまた真なりなのである。

ある程度の収入が保障されていて、勤務先の福利厚生制度にも恵まれた男女に関しては、放っておいても大丈夫である。結婚して、子どもをつくりたい人たちはつくるし、つくりたくない人たちはつくらない。彼らは決して経済的な問題で結婚や出産を諦めているわけではなくて、単なる個人の趣味嗜好によるものだからである。

社会が手を差し伸べるとすれば、そうではない階層の人たちである。学歴や障碍、その他の家庭環境等によって、安定した職業に就けないような人たちや、家族や地域のコミュニティによる「社会的包摂性」からも取り残された人たちである。

彼らに対してどのような施策が有効なのか。残念ながら、僕には明快な処方箋を示す能力はないが、「お節介おばさん」みたいな役割を担う人がコミュニティにおいてはやっぱり必要であるし、そういった人がかつて担っていたような役割を果たせる人がいれば、核家族化が進んでしまった地域で、「社会的包摂性」の網からこぼれた人たちを救う一助にはなりそうな気がする。

1つのアイデアに過ぎないが、「民生委員」制度が実効性をもって機能するように制度自体を抜本的に見直すというのはどうだろうか。「民生委員」とは、「民生委員法(昭和23年法律第198号)」に規定される特別職の地方公務員であるが、実態は無報酬のボランティアであり、町内会の役員のような地域の有力者が引き受けさせられていることが多い。

「民生委員法」第14条第1項では、以下のような職務を担うこととなっている。無報酬のわりにはかなりの重責である。
・住民の生活状態を必要に応じて適切に把握しておくこと、
・援助を必要とする者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように生活に関する相談に応じ、助言その他の援助を行うこと、
・援助を必要とする者が福祉サービスを適切に利用するために必要な情報の提供その他の援助を行うこと、
・社会福祉を目的とする事業を経営する者又は社会福祉に関する活動を行う者と密接に連携し、その事業又は活動を支援すること。

これだけの重要なミッションなのであれば、本来ならば、無報酬などとケチ臭いことを言わずに、適正な報酬を払って、ヤル気も能力もある適任者をアサインするべきなのである。

で、ここから先は僕の妄想になるが、若い男女のカップリングについても、「民生委員」が職務の延長線上で担うというのはどうだろうか。地域の実情、住民の身上に関する有形無形の情報をたくさん有しているのだから、これ以上の適任者はいないだろう。成功報酬方式にでもすれば、一定の効果はありそうである。たとえば、事実婚も含めて同居にまで至れば〇〇万円、子どもが1人生まれたら〇〇万円、3人子どもが生まれたら追加ボーナスありといった具合である。

おカネで釣るのは不謹慎であろうか。下手な結婚相談所よりも、成果が上がりそうな気がするのだが。




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