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太陽とトカゲ

JX日本石油童話賞に出した作品。

   トカゲと太陽

ある日、太陽から何か落ちてきた。場所はキャベツ畑。次の日、農夫が調べにやってきた。
「おかしいな。ここに落ちたのだが」
 探してみると、キャベツに変な生き物がいて、驚いた。
「見たことないのがいる!」
 中に恐竜によく似たトカゲが眠っている。大きさは小鳥くらいだ。
「ピキー、ピキー!」
 目覚めると、鳴きだす。トカゲは農夫にまとわりつく。農夫は離れようとしたが、離れない。肩によじ登ってさえずると、その可愛らしさに観念した。これではかなわない。
「仕方ない。おいてみるか」
 農夫は家にトカゲをおく事にした。不思議だ。ハ虫類の姿なのに常に二本足で歩き、走る。家で虫を捕まえて食べている。
 しばらくすると、犬くらいの大きさに成長し、畑に出るようになった。
 ある日、畑でトカゲは虫を捕まえ、食べている。
「捕まえたのか。ごくろう。ごくろう」
「おー、ごくろう。ごくろう。虫うまい」
なんと、トカゲはしゃべった。
「言葉わかるか?」
「わかる。わかる。覚えた」
「どこから来た?」
「お日さま。気づくと、キャベツの中にいた」
空からと思ったが、予想外な答えだ。
「太陽? そこで何をしていた?」
「友だちとお日さまにいた。でもケンカを止めようとしたら追い出された」
「なぜ?」
「誰が一番輝くか競ったら、言い争いをしてケンカが起きた」
「今。太陽はどうなっている?」
「お日さまを分けて、争う準備をしている」
 トカゲは空を見上げる。
「争ったら、どうなる?」
「いくつものお日さまの光が地上を照らす。もっと暑くなる」
「干ばつになるか。起きるとは思えないな」
 わからない事ばかりだ。農夫は続ける。
「じゃ、もし起きたら、お前はどうする?」
「翼をつけて、止めに行く」
「翼? 生えてないのに」
「今にわかるよ」
聞く話は突飛すぎて、農夫には理解できなかった。
 しかし、数ヵ月後にそれは起きた。太陽がいくつも分裂し、分かれた。彼らは輝きを競い始める。地上は熱に覆われ、干上がりだす。
「干ばつだ。畑の野菜が枯れてゆく」
「あつい。ついに始まったか」
 二人は暑さに苦しむ。その時、トカゲの体が燃え、炎に包まれてゆく。
「行かないと」
炎で体の肉は燃え落ち、羽毛が生え変わる。両手は翼となり、恐竜から鳥に姿を変えた。
「止めに行くのか」
 農夫は変わる姿に驚きを隠せない。
「行くよ。ありがとう。畑の虫おいしかった」
トカゲは翼を広げ、太陽たちの元へ行き、争わないよう説得する。しかし彼らは聞こうとしない。
「なり損ない! 引っ込め」
 太陽たちはトカゲを威嚇する。
「ケンカの為に、地上に迷惑をかけている!」
「知らぬ。地上の奴らなど!」
「ならば、力づくでも一つにするだけだ!」
 トカゲは太陽たちを強引にクチバシでくわえ、まとめようとする。しかし、彼らは逃げる為にクチバシに強い熱を加えて抵抗する。
「おのれ、お前に支配されたくない!」
「一つに戻れ。飲み込んで太陽になる!」
トカゲは太陽たちを飲み込んだ。体は再び炎に包まれて燃え、海の彼方に落ちてった。
「飛んで、海へ落ちて行ったか」
残された農夫は落ちた方向を眺める。今は灼熱の暑さは無いが、世界は暗くなった。
「暗くなったが、光が海の先に僅かに見える」
トカゲが落ちた方向に光が見える。光は消える所か炎となり、燃え盛る。
「もう一度昇ろうとするのか」
 炎になった光は再び空に昇り、世界を照らす。すると、どこかから声が聞こえてきた。
「今、お日さまになった!」
「誰だ?」
辺りを見回しても誰もいない。
「まさか、あいつが太陽になったのか?」
 気づいた瞬間、振り向くと、太陽は農夫に微笑みかけるような気がした。農夫は思わず手を合わせ、太陽になったトカゲに感謝した。太陽は今も地上の全てを照らしている。

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