見出し画像

好きな絵と好きな画家について語りたい。

私はジャン=レオン・ジェロームの蛇使いという絵が好きです。

この作品との出会いについては、先日このnoteでも書いのですが、今回はこの作品や作者を取り巻く当時の背景、その上でなんで私がこの絵が好きなのかについて書いていきます。(ようやく本題)

まずは作品の説明

画像1

ジャン=レオン・ジェローム《蛇使い》1879年 クラーク美術館蔵

ここに描かれているのは、身分の高そうな服装をした男性とその従者一行の前で、男なのか女なのかが明確に判別できないような子供が全裸で艶かしい蛇を使った芸を行っている、という場面です。

近くで見ると尚更感じますが、この作品は本当に細かい部分まで描きこまれていて、この作品を見る鑑賞者に写真・・・?と思わせるほど精緻です。

またジェロームは、人生で何度も北アフリカや中東地域を訪れているので、当時この絵が「現実を切り取って写し出したもの」という感覚を鑑賞者に与えたのも納得です。

一方で、この論調から想像がつくと思いますが、この場面は実際に現実の一場面を描いたものではありません

冷静に考えると分かると思いますが、まずこの寂れた宮殿風の場所に身分の高い人がいるのは謎ですし(しかも座っているのは地べた)、また蛇使いというのは貧しいが故に路上で芸を行うため、こういった宮殿のような場所で芸をするというのはありえないのです。

極め付けに、この作品の背景の宮殿はイスタンブールのトプカプ宮殿のタイルを模写したものと言われているのですが、当時のトルコには蛇使いはいなかったというところまで現代ではわかっています。

写真的リアリスムとオリエンタリズム

この絵は、大きく分類するとオリエンタリズムという西洋近代美術の一潮流にあたるものです。

これは捉え方にもよりますが、東方趣味という意味では古くはルネサンス時代から存在し、東方への交通網の発達した18世紀以降大きな潮流となります。

画像2

ウジェーヌ・ドラクロワ《アルジェの女たち》1834年 ルーヴル美術館蔵

似たような潮流でジャポニスムがあるので、それと性質としては似ているのかな?と考える方も多いかと思いますが、共通する点はもちろんありつつ、少し趣が違う部分もあります。

ジャポニスムは、当時の日本芸術の構図の大胆さ、平面性、装飾性などに影響を受けた側面も多分にありますが、オリエンタリズムはもっと西洋優位で、「西洋との比較の中で西洋のイメージする・西洋の見たいオリエントを描く」という側面がより強い潮流です。

具体的、かつ端的にまとめると、オリエンタリズム絵画の主張は「オリエントの人々は西洋の我々と異なり残虐で怠惰で欲望のまま行動する野蛮な民族だ」という点にある考えられています。

(上記でまとめている考えについては、エドワード・W. サイードの「オリエンタリズム」の内容をベースに記載しています)

その文脈でこの絵の描く要素を見てみると、蛇使いの芸にふける身分の高い人物=身分が高い人でさえこういった官能的な芸にふける怠惰な人物である寂れた美しい宮殿=美しいものを適切に保存して後世に残そうという考えのない遅れた民族、というように解釈ができるという訳です。

このオリエンタリズムは、アカデミズムの芸術家が得意とした「写真的リアリスム」、本物らしい、写真のような絵画を描くという方向性ととても相性が良いのです。

ジェロームのような画家が写真と見間違えるくらいの細かく幻想のオリエントを描くことで、西洋の絵画を消費する鑑賞者的には「あ、やはりオリエントに住む人々はイメージ通り怠惰で遅れた民族なんだ」と一種答え合わせ的な安心感や納得感が得られるという循環が生まれるということですね。

なんか作品のこと貶してない・・・?

ちなみにここまで読んでいるとなんでこの絵が好きなの?と不思議に思われると思うのですが、私がこの絵がとても好きな理由を最後につらつら書いていきたいと思います。

・時代背景含めて作品の考察がいくらでもできる。
・当時の絵画シーンにおける需要と供給の関係が面白い。
・この絵を描くためにジェロームがしてきた努力が愛おしい。(笑)
・純粋に何度見てもため息が出るくらい美しい

1つ1つ簡単に説明するとこんな感じです。

・時代背景含めて作品の考察がいくらでもできる。
→オリエンタリズムというものが美術史的に見ると時代や流派を超えて見出せる大きな流れであるが故に、その文脈で見るとジェロームのこの絵は今までのものと何が違うのか、どう新しいのか、というのを考えられるのが面白い。
(ちなみにオリエンタリズム自体が本当に時代によって好まれる題材やその背景などが多種多様で面白いので単体でもかなり沼です。。。)

・当時の絵画シーンにおける需要と供給の関係が面白い
→こういったジェロームのオリエンタリズム絵画は、彼自身がオリエントを描くのが好きという側面はありつつも、やはり当時のサロンなどのアートシーンの需要に応える、という側面が強いものだったと想定されます。

この現代にも通じる需要と供給の関係性の中に、アートが一種の経済活動なんだという部分が垣間見えるのが個人的に面白くて好きです。

・この絵を描くためにジェロームがしてきた努力が愛おしい。
・純粋に何度見てもため息が出るくらい美しい

→この写真のような幻想のオリエントは、間違いなくジェロームの高い技量やオリエントの観察と研究無くしては構成できないものです。

実際にこの背景にある宮殿のタイルのスケッチは何点も残っていますし、また繰り返し繰り返しオリエントを描くことでその技量が磨かれていったのは間違いないと思います。

私は、この幻想をより本当らしく見せるためにジェロームが行なった努力が愛おしいですし、故に何度見ても飽きないくらい美しい作品になっているなといつも思っています。

ぜひ他のジェロームの作品も見てほしい!

最後になりますが、今回は蛇使いという絵について書いてきましたが、ジェロームの他の作品も本当に魅力的なものが多いです!

私の独断と偏見でいくつかおすすめ作品を載せますが、ぜひ気になる方はもっともっとジェロームの作品を見てみてください。

画像3

ジャン=レオン・ジェローム《指し降ろされた親指》1872年
フェニックス美術館

画像5

ジャン=レオン・ジェローム《ピグマリオンとガラテア》1890年 
メトロポリタン美術館蔵

画像4

ジャン=レオン・ジェローム《Bethsabée》1889年 個人蔵

画像6

ジャン=レオン・ジェローム《二つの威厳》1883年
ミルウォーキー美術館蔵

ここまで長々と読んでいただきありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?