見出し画像

【小説】 蒼(あお)〜彼女と描いた世界〜  第10話 

第10話 約束の日
 
「オリバー、いつ来るのかなぁ」
「さあ。時間を言ってくれなかったからね。僕にも分からない」
二人は、準備万端でいつでも出られる様にと待ち構えていた。

店には『しばらくの間休業させていただきます』と張り紙をしていた。
時計が10時をまわった頃、店のドアが開いた。


「やあ、お待たせ。ちょっと店に寄ってきたから遅くなったよ」
そう言うオリバーは、ポケットの沢山ついた服に、大きなリュック。先ほど寄ったお店の袋らしき物を手に持っていた。
リリーは、もしかして……と思い、オリバーの持つ袋を覗き込んだ。
袋の中には、フルーツサンドが沢山入っていた。
「勝手に触らないでくれ」
オリバーは、手で払う仕草をした。
リリーは、オリバーの袋から離れてジャンのそばに寄り、
「オリバーって、つんとしているのに、意外と可愛らしい食の趣味をしているよね」
とジャンの耳元で囁いた。
それを聞いてジャンは、ふふっと笑った。
オリバーは、その場の空気を変える様に、冷静な表情をして言った。
「さて、準備出来ているなら、早速行こう」
リリーは、羽根を羽ばたかせながら喜んでいた。
「いよいよ始まるのね!」
「ああ、行こう。日が暮れてしまう前にある程度進んでおきたい」



三人で、森に向かって歩き始めた。

森までの道のりは、通った事のある道だ。いつもと変わらない日常の延長の様だった。特に問題が起きるわけでもなく、順調に到達すべき場所まで来た。森へと入る場所だ。

森の目の前まで来ると、オリバーが後ろを振り返って言った。

「さっきからコソコソと後をつけて何をしているんだい?」
リリーとジャンもその言葉に反応して、来た道の方へと振り返った。

物陰から、のっそりと出てきたのは飯屋を営むウィリアムだった。
ウィリアムは、
「彼が大荷物だったから、本当に森に行くんじゃないかと思って、ついて来たんだよ。まさか君たちが仲間とはね」
とリリーとジャンの方を見ながら言った。
オリバーは小さくため息をついて、
「本当に行くとしても、あなたには関係ない。ここまで来て止められた所でじゃあ、やめるとはならないよ」
ウィリアムは、ゴクリと唾を飲み込むと、鼻を擦りながらモゴモゴと言った。
「いや、止めに来たんじゃない。……私も、一緒に連れて行ってくれ」
オリバーは、何を言っているんだ。とでも言わんんばかりの表情をしていた。
「正気かい? 大体、荷物だって準備してきたわけじゃないだろう?」
ウィリアムは、体に対しては小さなリュックを背中から下ろしてオリバーに見せながら答えた。
「急いで詰め込んだけれど、大丈夫だ。足りないものは自分で何とかする」
オリバーは呆れて、返す言葉をほとんど飲み込んだ様子で、少しめんどくさそうに言った。
「……何で行きたいのか知らないけれど……正直、仲間はある程度いる方が良い。君がどうなっても僕は責任を取れないけれど良いかい?」
ウィリアムは、表情を明るくして頷いた。
「ああ」
「じゃあ、話は決まりだ。ここでこの話をダラダラしている時間は無い。とにかく君の話は後だ。……ところで、名前は?」
今更ながらオリバーが聞くと、ウィリアムは手を差し出しながら答えた。
「ウィリアムだ」
オリバーは、その手にチラリと視線だけ送り、
「ウィリアム、ね。僕は、オリバーと呼んでくれたらいい」
とだけ返事をした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?