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『ストロング・スタイル』のウラバナシ(1)

 プロレス小説『ストロング・スタイル』、発売して1ヵ月ほどになりまして。書店でお手に取ってくださった方もいらっしゃいますでしょうか。なんかこう、作者が肌で感じる世間様のリアクションみたいなものからすると、今までの読者層とは違った方が読んでくださってるような感じがします。

 まあ、言うたらプロレスファンの方々ですよね。

 プロレス小説と銘打ったので、もちろんプロレスファンの人にも読んでいただきたいと思って書いたわけですけれども、まあ、今回はある意味プロレスの「書いちゃいけないところ」を思い切り書いてしまったこともあって、ファンの方に、おい何してくれてるんだ、と言われるんじゃないかと内心どきどきしておりました。今のところ、まだ恫喝されたり非難されたりということはなく、平穏無事に暮らすことができております。

 ただ、もちろん、僕もプロレスファンのはしくれではありますので、『ストロング・スタイル』の執筆にあたっては、自分の好きなレスラーとか技、エピソードなんかをいろいろ小ネタとしてぶち込んだわけなのですよ。おかげで、編集さんから「このキャラの名前ダサくないですか…?」とか言われる始末。すみません、元ネタがありまして…、的なやり取りが何度か繰り広げられたものです。にしても「名前ダサい」て。ひどくないすか(笑)

 プロレスファンの方は気づいてくださった方も中にはいらっしゃると思うのですが、一応、備忘録なども兼ねて、今回は主人公「御子柴大河」の元ネタ大暴露大会をしてみようかなと思います。なお、本編と違ってnoteは趣味丸出しで書きますので、プロレスを知らない方は完全に置いてけぼりになるかもしれませんが、何卒ご了承くださいませ。


↓↓↓以下、ネタバレ入ります↓↓↓


■御子柴大河のキャラクターおさらい

 本作主人公「御子柴大河」のプロフィールは以下の通り。

名前:御子柴大河(みこしば たいが)
年齢:30歳(作中初登場時点では20歳)
所属:JPF
身長:188cm
体重:105Kg
必殺技:ラスト・ジャッジメント(変形ダイビングボディプレス)
得意技:バックドロップ、ラリアット
キャッチコピー:「リングに降臨せし神の子」「神の子」

 ということで、御子柴は「恵まれた体格を持ったメジャー団体の若きエース」というキャラクターであります。まあ、読んでいただいたプロレスファンの大半が感じることかと思うんですけど、一番のモデルは新日本プロレスの棚橋弘至選手ですね。

 スポーツフィクションというのは、どうしても現実のスポーツより面白くなるってことがなかなかないので、現実世界を投影したパラレルワールド的な書き方が求められることになります。ドカベンだってプロ野球編がありますし、キャプテン翼だってFCバルセロナに入団したりしますしね。読者の方には、現実世界の選手と照らし合わせながら、作中登場人物をイメージしてもらうわけですね。

 本作は00年代頃~2010年代初頭くらいまでのプロレス暗黒時代~復権までをモデルとしているので、新日本プロレスV字回復の立役者となった棚橋選手の存在は象徴的なものとして入れ込まざるを得なかったというか。

 まあ、単純に大好きな選手なのでモデルにしたかった、というのが実際のところであったりするのですが。

■キャラクターのモデルは3人のレスラー

 御子柴大河のモデルとなったレスラーは、まず3人おりまして。

 ①棚橋弘至選手(新日本プロレス)
 ②オカダ・カズチカ選手(闘龍門→新日本プロレス)
 ③中邑真輔選手(新日本プロレス→WWE)

 なんでしょう。この、新日のトップスター詰め合わせみたいな。

 愛されキャラクターであったり、自己プロデュース能力が高かったりする部分は棚橋選手。
 20歳という若さでJPFという日本最大のプロレス団体(作中)のエースとなるところは、17歳デビュー・25歳IWGPヘビー戴冠のオカダ選手、22歳デビュー・23歳IWGPヘビー戴冠の中邑選手をモデルに。
 身長・体重は、大体中邑選手と同じくらい(188cm/104Kg)ですね。

 作中の御子柴のキャッチコピーである「神の子」は、中邑選手の新日時代のキャチコピーである「選ばれし神の子」が元ネタだったりします。

 御子柴はデビューから5年間、師匠である横島をセコンドにつけますが、これは、「レェベルがぁ」でおなじみ、オカダ選手と外道選手のコンビがモデルです。

◆名前の由来

 御子柴大河の名前、「大河」については、タイガーマスクの「タイガー」から来ていると気づく方も多いのではないでしょうか(笑)

 本作は、御子柴大河と小林虎太郎という二人のレスラーの対比が軸となっていますので、昭和のプロレスファンを虜にした、「初代タイガーマスクVS虎ハンター・小林邦昭」の抗争が元ネタになっています。まあ、僕は年代的にリアルタイムじゃないんですけども。

 今見てもハイレベルな攻防でございます、、、

 また、大河の場合は「お父さんが昭和のプロレスファン」という設定があったので、この世代のプロレスファンだと、息子に「タイガー」の名前をつけてもおかしくないかなあ、という発想のもとで決まりました。

 名字の「御子柴」は、覚えやすくてヒーロー(ベビーフェイス)っぽい感じにしたかったのでモデルや元ネタは特段ないのですけれども、「御子柴」はもともと「神子柴」と書くこともあり、キャッチコピーである「神の子」にかかるようにしてあったりします。

■ファイトスタイルのイメージは棚橋選手

 プロレスという競技を小説化するにあたって、プロレス技をどう文章で表現するか、っていうのはひとつの課題であったりするのですよね。作中で登場する技は、プロレスファンじゃない人が見てもイメージできないといけないので、あんまり複雑な技は使えないのが難点でした。

 御子柴のフィニッシュホールドである「ラスト・ジャッジメント」は、作中オリジナル技です。とはいえ、簡単に言っちゃうと「手を水平に広げた伸身のダイビングボディプレス」というシンプルな技。「神の子」というギミックにちなんで、十字架をイメージしています。名称も、「最後の審判」の意味ですね。

 モデルである棚橋選手のフィニッシュホールド「ハイフライフロー」は、屈伸式ボディプレス、いわゆる"フロッグスプラッシュ"というものですが、御子柴のボディプレスはどちらかというと空中姿勢の美しさを魅せるタイプですかね。初代タイガーのダイビングヘッドバットとか近いかもしれません。

 また、得意技であるバックドロップは、作中で「幼少期に見たジョー・キングというレスラーのバックドロップに影響を受けた」という設定なんですけど、この「ジョー・キング」のモデルは、「殺人医師」ことスティーブ・ウイリアムス選手

 スティーブ・ウィリアムス選手の高角度で落とす”殺人バックドロップ"はさすがにヤバすぎるので、実際にレスラーになった大河は、もうちょい落とす角度を考えて投げている、という裏設定がございます。
 過去シーンで登場する「雪崩式バックドロップ」は、正直、そこまで一般的な技ではないんですけど、読み物としてのわかりやすさのためにあえて使うことにしました。雪崩式スープレックス系の技はいろいろありますけど、雪崩式バックドロップって、打つ方もヤバい角度で落ちるので、見ていてヒヤヒヤしますけどね。

 大河のもう一つの得意技はラリアット。作中の大河のラリアットは、自らロープに走って勢いをつける、ランニング式ですね。スタン・ハンセン選手のウェスタンラリアットのようなカチ上げタイプではなくて、長州力選手のリキラリアットに近い叩きつけ型のイメージですかね。もしくは、エル・サムライ選手のサムライ・ラリアットとか。腕力より、脚力による推進力で威力を出すタイプかなと思っております。

 大河のフィニッシュまでの得意ムーブは「ラリアット→高角度バックドロップ→ラスト・ジャッジメント」というもの。これは、棚橋選手の、「スリングブレイド→ドラゴンスープレックスホールド→ハイフライフロー」の流れを参考にしております。

 最近の新日の選手は、結構オールドスクール技を駆使する人が多いんですよね。棚橋選手の使うテキサスクローバーホールドは往年のテリー・ファンクの技ですし、オカダ選手の得意技はドロップキックとツームストンパイルドライバーという古典技。鈴木みのる選手もゴッチ式パイルドライバーがフィニッシュホールドですね。
 こういったプロレス技の原点回帰の流れを作ったのは、足四の地固めを得意にしていた武藤敬司選手じゃないかなと思います。ドラゴンスクリューで膝を殺してからの足四の字、という流れは、足(膝)責めという説得力があるコンボでした。棚橋選手もドラゴンスクリューからのテキサスクローバーホールド、という攻撃をよく使いますね。
 派手で難しい技を使わないと盛り上がらないわけではなく、一つ一つの技の「説得力」が重要である、というところは、プロレスの醍醐味のひとつじゃないかなと思います。

 大河は、アクションが派手なアメリカンプロレススタイルのレスラーという設定ですが、得意技を古典技にすることで、レスラーとしての重厚感が表現できたらいいなあと思いました。プロレスファンの方がどういうレスラー像を思い描いたのか、作者としてはちょっと気になるところではあります。


 とまあ、今回は『ストロング・スタイル』の主人公・御子柴大河の設定についていろいろウラバナシをさせていただきました。とはいえ、こういう設定は小説の味付けで、本編にはあんまり関係ないんですけどね。でも、作る側はこういう大筋に関係ないところを考えている時が一番楽しいんですけどね。

 いずれまた、他のキャラクターについてもネタバラシしていこうかなと思います。



小説家。2012年「名も無き世界のエンドロール」で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。仙台出身。ちくちくと小説を書いております。■お仕事のご依頼などこちら→ loudspirits-offer@yahoo.co.jp