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サポートすべきは、記憶を保存する力か? 記憶を検索する力か?

どんな記憶にも「保存」「検索」の二つの力がある。
保存の力:学んだことを覚えている尺度
検索する力:情報の塊をいかに楽に思い出せるかの尺度

ベネディクト・キャリー,2015,「脳が認める勉強法」,ダイヤモンド社

保存の力か? 検索する力か?

生徒の学力を育成するには、

「保存」と「検索」

どちらの力を重要視すべきなのでしょうか?


私は「検索する力」だと考えています。

理由は、
学んだことを一定の期間、無意識のうちに脳に保存することができ、
さらに意識的に覚えた情報は永遠に脳内に記録されるほど
「保存の力」は強力だからで、
私の拙い指導よりハイスペックな脳に任せる方が効果的でしょう。

その「保存の力」に対して
「検索する力」は不安定であるため補助が必要であると考えたからです。

例えば、
九九を完璧に覚えていても(「保存の力」)、

計算する際にうっかり忘れしてしまったり
2×3=8のようなエラーが生じたりするケースが考えられるので、

覚えている九九をスムーズに思い出し
適切に活用することができる「検索する力」がなければ、
せっかく知識が脳内に保存されているのに無駄になってしまいます。

この「検索する力」は、
保存している知識をアウトプットし続けることによって強化されていき、
即座に思い出せるようになりますが、
少しでも怠ってしまうと「検索する力」が弱まり、
思い出せなくなるようです。

この状態は何も生徒に限った現象ではなく、我々大人も、

「あ~、あの人の名前、ここまで出てくるけど、思い出せない」

というような経験は日常にあふれています。
小中学校で学習した知識もそうでしょう。

より極端なことをいえば、絶対覚えているという知識であっても、

「あ~あれ何だったっけ?お茶を飲むときに入れる器…」

というように
(湯呑み)という言葉を、ど忘れしてしまうようなこともあります。

ただし、
この現象はあくまで「検索する力」が衰えたために思い出せないのであって
脳内からその情報が完全に消えたのではありません

「検索する力」がこれほど不安定であるという事実を考えれば、
子どもたちにどう教えるべきかという指導法が変わってくるはずです。

特に、義務教育が終わる中学生にとって、
自分の希望する進路先に進むためには、
就職であろうと進学であろうと何らかの検査があるはずです。

進学の場合、
高校入試で自分の脳内にある情報をスムーズ検索して
結果を出さなければ希望は叶いません。

就職の面接の場合、
面接官の質問に対する回答も同様のことがいえます。

人生の一歩目を踏み出す中学生に対して
「検索する力」を向上させることは、かなり重要なタスクです。

検索する力の向上が思考を助ける

また、「検索する力」は単に知識を思い出すだけではなく、
私たちの思考を補助してくれます。

このような円の問題があったとき、

円というキーワードに対して関連する知識をスムーズに検索できるかどうか

で結果が大きく変わります。

ここに同じ数学の授業を受けていた
Aさん、Bさんがいたとします。
その2人が円というキーワードに対して、

Aさん「円といえば…」
・まるい
・中心
・直径は8cmだから半径は4cm   など

Bさん「円といえば…」
・半径は等しいから二等辺三角形が作れる→(発展)二等辺三角形の性質
・円周の長さや円の面積の公式
・円の一部のおうぎ形がある 
 →(発展)おうぎ形の弧の長さや面積を求める公式
・中心角360°
・円周角の定理
 ※特に直径に対する円周角は90°だから∠ACB=90°   など

というように2人が脳内で検索したとします。

同じ授業で同じ知識を学んだはずですが、
Aさんのほうが思い出せる量が少ないということから、
「検索する力」の差によるものと考えられます。

では、どちらの方が問題を考えて解答にたどりつきやすいかというと、
一目瞭然ですね。


「この円においてBCの長さを求めなさい」という問題であった場合、

∠ACB=90°に気づいているBさんは

「△ABCが直角三角形である」→「三平方の定理が活用できるのでは?」

というように思考を巡らせて解答できる可能性がありますが、

「直径に対する円周角は90°」

という情報を検索できていないAさんにとってはかなり厳しいでしょう。

「AC//DOのとき、△ACEの面積を求めなさい」などの別の問題についても
Bさんのほうが思い出せる知識が多く、考える材料がそろっているので、
Aさんより深く思考することができるはずです。

このように、
「検索する力」を強化、熟練させることが
思考力アップにつながると考えられます。

検索する力を伸ばすには…

ではその「検索する力」を強化するにはどうすればいいかというと、
その知識の活用頻度を増やし、
何度も何度も脳内から検索する(アウトプットする)しかありません。

脳内にGoogleのような検索エンジンを作って、
キーワードを入れれば、たくさんの知識がヒットする状態になるように
学習していくイメージです。

また、私は数学の授業において、
「マジ〇ルバナナ」のように知識を関連させ、
知識はつなげて覚えるように指導しました。

円といえば → 半径が等しい 
半径が等しいといえば → 二等辺三角形ができる
二等辺三角形といえば → 底角が等しい、垂直二等分線 …

などのように自動的に思い出せる内容が増えれば、解ける問題も増えるし、いろいろな考え方ができるようになることを伝えていました。

まとめ

不安定な「検索する力」は努力しなければ強化できません。

ただし、検索したくても、覚えていなければ脳内に情報は0なので、

not found

となってしまいます。

まずは基本知識をしっかりインプットすることが重要です。
ないものは、検索してもヒットしません。

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