小学校教育でコミュニティデザインを学ぶという驚き

 息子の小学6年生の国語の教科書にコミュニティデザインを紹介するエッセイが取り上げられている(山崎亮「町の幸福論―コミュニティデザインを考える」『新しい国語』東京書籍)。そこではコミュニティデザインとは町に住む人々の豊かさや幸福につながるように人と人とがつながる仕組みを作り、コミュニティを組織していくこと、とされている。そして筆者は事例を交えつつコミュニティデザインを用いて地域の課題を解決する際に重要な点を2つ指摘している。まず一つは、地域の課題に対して地域の住民が継続的・主体的に取り組むこと、そしてもう一つは未来のコミュニティのイメージを持つことである。そして特に未来のイメージを持つ手法としてバックキャスティングという思考方法を紹介している。すなわち「まず未来をえがき、その未来から現在をふり返って、今やるべきことをみつけていく」方法であり、「タイムマシン法」とも言われている方法である。この思考方法については本文中に概念図をも用いて説明されているため、エッセイの副主題でもあると思われる。


 さて、何気なく手にした小6の教科書でコミュニティデザインを使ってまちづくりに参画しようとこどもたちに呼びかける内容に正直、衝撃に近い驚きをもった。個人それぞれが持つ「豊かさ」や「幸福」を住環境という自分を取り巻く環境において具体的にイメージをし、それを皆が持ち寄って、コミュニティとして一つのイメージを作り上げる。それが豊かな町、しあわせな町、ひいては社会をつくっていくんだよ、というメッセージ。そして皆で描いた「未来の姿」から今現在を顧みて、今、ここで何をすべきか見つけそれを実践していこう、と呼びかける。11歳のこどもたちがもしこのような実践をしたならば、どんなに面白い未来が描けることだろうか。そしてこの子たちが大人になって社会に出ていったときに、この教育を受けたこどもたちの何人かがリーダーシップをとり、多様な年齢・社会階層の人たちを巻き込みながら話し合いによって社会の抱える課題に対し共通の未来像を描き、実現に向けて取り組むようになっていくのだろう。


 公的教育がもつ社会へ与えるインパクトがいかほどかは定量的に計測したことはないが、教育の外部効果を考えると、公教育で扱う内容が今後の社会の在り方に少なからぬ影響を与えるだろう。このエッセイを読んで改めて公的教育で何を取り上げるのか、こどもたちに何を伝えるのかということがいかに重要であるかを再認識した(その影響力の大きさから公的教育の怖さもしかり)。また日本の教育の内容についてはさまざまな意見があることは承知しているが、少なくとも教科書レベルでは普遍的な価値を伝え、かつ実践的な内容を教え身に着けさせようとしていることが伝わり、教育の質としては高い水準にあると感じた。社会の課題を民主主義社会の根幹である話し合いによって未来を描きバックキャストで解いていくことで、多くの人が幸せと豊かさを感じられる社会につながっていく、そんな世界となるきっかけが小学校6年生の教科書で学んだことにあるとすれば、それはすごいことだと思わないか。少なくとも私は公的教育の意義と価値を見せつけられたと感じた。


 それにしてもバックキャスティングという思考方法は、町づくりに限らずよりよい生き方を実践するうえでもとても有効なツールだろう。こうした方法が教えられているということを踏まえたうえで、のちに続く教育の現場(例えば学級運営などで)使われるとよいな、とも思った。もちろん大学のゼミ活動や、家庭内での話し合い、コミュニケーションの場でも使っていこう。「教科書で習ったでしょ?」とか言いながら。

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