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香道体験会レポート:令和元年「香筵 伽羅の香りを聞く会」@東京国立博物館 茶室 転合庵2019年11/23(土・祝)

令和元年・御即位記念 伝説の名香「蘭奢待」の東京初公開
雅やかな和の香りに遊ぶ香道体験会レポート
蘭奢待の伝来に関する複雑な歴史も合わせて掲載

正座なしで本格派の聞香・香道の雰囲気を楽しめる、毎年人気の香道体験会「伽羅の香りを聞く会」第6弾。

令和元年の御即位を記念して、東京国立博物館(東博)で特別公開された「蘭奢待」と、香道の歴史についてのミニ講座付きの香道体験会、開催当日レポートをお送り致します。

後半には、正倉院の世界展を見ての感想と、香道体験会でもお話した蘭奢待に関するよくある誤解の一部、正倉院の蘭奢待とは別個に「蘭奢待」の名で伝来する香木に関する情報などについても記載しています。

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画像1 会場となる東京国立博物館 庭園内茶室「転合庵」入口 

ご挨拶

「香道(こうどう)」とも呼ばれる日本のお香文化に興味を持って頂きありがとうございます。この「香筵 伽羅の香りを聞く会」は、初めての方でも気軽に、おしゃれなレストランやバーに行くような感覚で、それでいて、本格派の香筵の雰囲気を体験を楽しめる機会を作ろうという思いから始めた、香りと文化の会主催による香道体験会シリーズです。

香筵(こうえん)とは、お香の会のことを意味し、香会、香席とも言います。毎年、年に一回程、東京国立博物館の茶室で開催しているこの香道体験会シリーズは、今回で第6回目を迎えます。(前回・第5回の開催レポートはこちら

告知から早々に満席となってしまいましたが、少人数制ゆとりある空間でじっくり香りを楽しんで頂くポリシーのもと開催しているため、充分な増席は難しい状況にありました。今回、残念ながらご参加が叶わなかった方々にもレポートを公開致しますので、少しでも当日の雰囲気をお楽しみ頂けましたら幸いです。

小堀遠州ゆかりの茶室・転合庵で、お香日和に香を聞く。

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画像2 転合庵から見える景色:初冬の庭と枯れ蓮の御池

「転合庵(てんごうあん)」とは、小堀遠州が八条宮に下賜された茶入「於大名」をお披露目する茶会を開くために作られたお茶室です。現在は、この時の茶入と共に東博に寄贈されています。本日の香道体験会は、こちらの由緒あるお茶室と、その周辺を貸切にして開催しています。

はらはらと細やかな雨の中、庭園とその建物をご案内しながら、転合庵へ。

一般に雨の日は「お足元のよろしい日」とは言い難いものの、こと香道について云えば、雨ならではの恩恵もあります。

香道の古文書の中には「雨と雪の日には香を聞け」と書かれたものがあります。
これは湿度が高いと香りが良く聞けるから、という理由によるものですが、現代の実験でも湿度が香りの評価に影響を及ぼす実験結果が報告されています。
昔の人々はそうしたことを体感的に知っていたのでしょうが、湿度が高い時に香を聞くことは、科学的な面でも理にかなっている、といえるようです。

そのため、雨の日は「お香日和」と言う事にしています。

また、通常は一般非公開の東博の北庭園。この日は本来なら秋の特別公開の期間にあたるのですが、雨の日は一般公開が中止になるため、職員の方以外は庭園に立ち入ることが出来ません。

お茶室だけでなく、庭園も含めて貸切の状態に。

雨音が心地良い静穏な日本庭園、雨に潤んだ空気が香りを運ぶ……お香を聞くにはちょうど良い環境が整いました。

三種の香木の聞香、掌の上の香りを楽しむ。

香道には様々な形のお香があります。当日は、よくある香道体験会で実施されている「組香(くみこう)=香りの違いを聞き分けて当てるゲーム形式のお香」ではなく、一つの香木の香りとじっくり味わう「鑑賞香」形式でお香の香りを聞いて頂きました。

組香は組香で良いところもあるのですが、香りを聞き当てる/当たらないに意識が向きがちになり、要らぬ緊張を抱えてしまいやすいところがあります。純粋に香木の香りそのものと向き合う点では、鑑賞香形式の方が向いているため、この香道体験会では鑑賞香形式を中心に開催しています。

今回は、次の三種のお香を聞いて頂きました。

白檀:線香や精油の原料のほか、数珠や扇子など、工芸品などにもよく使用される香木。この会では毎回、白檀の中でも最高品質と言われるインド南部マイソール地方で産出される「老山白檀」を使用しています。
霜衣:開催告知時もシークレットとしていたこのお香は、本香筵用の仮の銘*として「霜衣」と名付けた香木です。(*人で言えば、本名とは異なる雅号やペンネームのようなものだと思ってください)この香を選んだ理由は後述します。
伽羅:香道では、沈香の中でも六国と呼ばれる香りを持つ特別な香木を使用します。伽羅は六国と呼ばれる香木の中でも「宮人のごとし」とも喩えられる、妙なる香りを持っています。

聞香の際には、聞香炉と呼ばれる、掌(たなごころ)の上にのせて用いる小さな香炉を使います。香炭団という、聞香専用の小さな炭を熾した後、程よく灰の中に埋め、銀葉(ぎんよう)と呼ばれる雲母の薄板に銀の縁取りをしたものを敷きます。この銀葉の上に香木の小片をのせて、間接的な熱で以って、香木の持つ香りを引き出していきます。

香炉アップ

画像3 聞香炉と香木(※当日は別の梨子地香盆を使用)

火をつければ手軽に香りを出す線香と比べると、複雑な手順を経て、かつ、その日の環境を加味して火味(火加減のこと)をきちんと調節しなければならない聞香は、少し手間を感じるかもしれません。

しかし、お線香のように直接火をつけて燃やすことをしないため、聞香は、木の焦げたような匂いが強調される事なく、馥郁たる香木の香りを存分に楽しむことができるのです。

特に気温の低い時節には、香木の香りに加えて、掌の上にある聞香炉の温かさも、心をほっと和ませてくれます。


後座:お茶とお菓子と、ミニ香道講座。

後座(ござ)とは、お茶やお香の後に飲食を伴って行われる語らいのひと時のこと。古くはこの後座のひと時も含めて行われるのが主でした(しかも酒宴や懸物を伴うことも多く、ある意味では後座の方が目的のようになることも……)。

現代では、茶道・香道体験会はもとより、日頃茶道や香道を嗜む人同士で開く香会・茶会であっても、効率化の観点から後座は省略されることが多いものです。

しかしながら、香を聞くその最中ばかりが、香筵の豊かさはではありません。共に香りを楽しんだその後の、そこに集う人との交流や、ちょっとした小話の中にも豊かさは宿るもの。そのため、この会ではなるべく後座も含めて開催しています。

この日はお茶やお菓子を頂きつつ、蘭奢待や香道に関するミニ講座を開催致しました。落ち着いた雰囲気の聞香の後は、時々笑い声も入り混じりる和やかな雰囲気のもと、お茶とお話を楽しみながら過ごしました。

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画像4 三種の神器にちなんだ本日のお菓子

本日のお茶は、享保年間創業の京都・一保堂茶舗「極上ほうじ茶」。ほうじ茶の中でも風味がよく、和洋を問わず様々なお菓子にも合わせやすいお茶です。特に寒い日に頂くと、その美味しさが際立ちます。

本日のお菓子は、今年は御即位の年ということで、三種の神器にちなんだ三種のお菓子をご用意しました。木曽檜を使用して一つずつ職人の手で作られた縁高様の器に、竹製の匙を添えて盛り付けます。

「木は檜(ひのき)、花は桜木、人は武士」という言葉もありますが、檜は木目の美しさや耐久性・抗菌性の高さ等から、法隆寺の五重の塔や、伊勢神宮の遷宮の用材として選ばれるなど、古くから日本の文化・建築と深い結びつきのある木です。

伊勢神宮の方によれば、当初の数百年は伊勢の神路山で伐採した檜を使用していたものの、良質な木材が不足したことから、室町時代以降は木曽檜を式年遷宮に用いる木材として使用されているそうです。

「彩雲」
天叢雲剣(草薙剣)のイメージより、雲にちなんだお菓子をご用意しました。ふわふわと柔らかな白い雲に、華やかな五色の彩り、本金の金沢箔が舞う、大変おめでたいの雰囲気のお菓子です。雲のように軽やかな口当たりをお楽しみ頂けます。着色には全て天然色素を使用しています。
「鏡おこし」
八咫鏡のイメージより、大嘗祭にも用いられた京都・丹南市産「きぬひかり」を使用した炒り米などの穀物を、鏡型の「おこし」風に仕上げたお菓子です。現代でも食される穀物を固めて作る「おこし」は、奈良時代〜平安初期に中国大陸から伝わった輸入菓子「唐菓子」の一つにその原型があると言われています。皇居周辺の染井吉野桜から採取された風味絶佳の蜂蜜で甘みを加え、古い銅鏡のような緑がかったお色を抹茶で表現しています。
「室町傍瑠(むろまちぼうる)」
八尺瓊勾玉のイメージより、勾玉型のお菓子をご用意致しました。然花抄院製、京都・丹波産の黒豆を食べて育った鶏の、黄身の味がしっかりと感じられる滋味豊かな卵を用いたカステラ生地を、さっくりとサブレのように焼き上げてあります。


実際に香道体験会に参加された方々のご感想

今回ご参加の方から寄せられた感想をご紹介します。口頭あるいはメールなどで頂いたものはテキストにて記載し、SNSをオープンにされている方についてはそのまま引用しています。

個別に頂いた感想コメントもご紹介致します。

「お香について詳しく教えてもらえて良かったです」

「本物の伽羅の香りをじっくり聞けると聞いて参加しました。すごくいい香りでした!」

「滅多に来られない場所で、香道も体験できて、とても楽しかったです!」

「床の間に飾られていたお道具も素晴らしかったです」


*実を言うと、お香ではお茶ほど気合の入った(?)床飾りはしないことも多い(けれども近年はお茶のやり方を参考にしてか、茶道風の床の飾り方をされる方も増えてきたような)ものです。
今回は蘭奢待が東京で広く一般公開される記念すべき年ということもあり、阿古陀香炉(火取香炉)のような代表的な香道具と合わせて、普段はお見せしていない、珍しい香道具も飾って御目に掛けました。

それぞれにお香を楽しんで頂けたご様子、大変嬉しく思いました。

過去にこの香道体験会に参加された方々の中には、その後、和文化の面白さに目覚めて、本や色々な伝統文化の体験会で学んだり、茶道などを習い始めたりする方々もよく居られます。

これを機に、また何かの折に、和の香りや文化の魅力に親しんで頂ければ何よりです。


余談1:蘭奢待が東京で一般公開、記念すべき特別展の所感。

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画像5 正倉院の蘭奢待(黄熟香)

今年は令和元年の御即位にあわせて開催される御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」にて、蘭奢待という香道史上、そして歴史的にも貴重な香木が、東京で広く一般に公開される記念すべき年でした。

蘭奢待は織田信長の截香(香木の切り取り)以降、蘭奢待を切り取ることが権威の在り処を示す象徴的な行為として認識されて来ました。

※近年の研究においては、信長本人の奈良訪問の目的は、あくまでも「混乱期にあった現地の治安維持」にあり、蘭奢待の切り取りによって自身の権威を天下に知らしめることが主目的ではなかったとする新説もあります。実際に、信長本人の意図はそうではなかったのかもしれませんが、信長の截香以降、後世の人々は、蘭奢待と天下人を強く結びつけて考えるようになりました。

これまでは切り取ることが権威の象徴とされてきた蘭奢待が、新しい時代に合わせて「広く一般に公開」された事は、これまでとは異なる趣、特に「平和」や「博愛」といった言葉が似つかわしい出来事ではないでしょうか。

現在でも公開は稀な事とはいえ、かつては将軍でもままならぬものであった蘭奢待の拝見が、多くの人に開かれた機会となったことは、特筆すべき事です。

室町・戦国時代、そして香道人気が爆発的に高い時代であった江戸時代の人々からすれば、まさに夢のようなお話でしょう。

しかも、法隆寺ゆかりの香木と合わせての特別公開、本当に貴重な機会でした。同時期の常設展には、宸翰や香道史上の重要人物たちの掛軸や香道具が展示されていた事も魅力的でした。

また、最後の方に展示されていた「塵芥(じんかい)」や、パーツの不足から明治期に誤って修復されてしまった伝来品の調査・再修復の事例も大変興味深いものでした。
貴重な正倉院の宝物の数々に加えて、それらを守る舞台裏の一端も紹介する事で、文化財保存の難しさ重要性、後世に遺す意義を大いに感じられる、素晴らしい展示だったと思います。

次に正倉院の蘭奢待が一般公開されるのはいつになるかはわかりませんが、今後も末長くこうした宝物が後世に伝え遺されていくことを願ってやみません。


余談2:本香筵の企画にあたって

さて、本香道体験会では、例年、白檀・伽羅に加えてもう一種の沈香(時々、別種の伽羅)を焚くことで、香木の個性の違いを比べてよく味わえるようにしていましたが……こうした記念すべき年ということで、今回は少し趣向を変えることにしました。

実は過去に複数回、蘭奢待の名で伝来する香木の拝見・聞香の機会に恵まれたことがあります。その複数回の内の、ある機会に聞かせて頂いた香木を参考として、その香木に一部似たところのある香木を選び、この機会に聞いて頂こうと思いました。

かつて私自身がお香について全くの初心者であった頃に「名画の複製や伝承に基づいて再現された作品を楽しむように、蘭奢待に近い香木を聞くことが出来たらいいな」「もっと詳しい情報が欲しい」と思ったことがありましたので、このような希望を持つ方々に楽しんで頂ければ、という考えから今回の香道体験会のテーマを企画しました。

とはいえ、事前告知にあたっては、文章の内容を早合点して「本物」あるいは「完全な復元品」と誤認されないよう対策が必要だと思いました。また、あくまで部分的とはいえ、似た所のある香木であると事前に公表すると、香りや文化を楽しみたい人とは別に、偽の蘭奢待を作る参考とする目的で近づく人が出るかもしれない、という危惧もありました。残念な事に、昔から現代に至るまで、伽羅の偽造品や偽物の沈香は本当にたくさん流通しています。そして蘭奢待などの名香も、その例外ではありません。中には、正倉院の蘭奢待とは明らかに異なる外見の香木に「鵺退治の褒美に下賜された蘭奢待」であるという不自然な由緒書きを伴って、映えある名家にも流通している香木も存在します。

杞憂を含むかもしれませんが、こうしたいくつかの懸念点に対処するため、1)開催の告知時点では単なるシークレットの香木としておく、2)開催後も仮の香銘「霜衣」で通す、3)開催レポートと合わせて、偽物の香木や鵺退治の蘭奢待などについて説明を付すことで注意喚起を行う、という方法で前述の課題に対処した上で会を開く事にしました。

なお、今回選んだ香木は、過去に蘭奢待の香りに出会った人達の記録内容のうち(鵺退治の褒美と思われるものを除いた)複数の記録とも一部共通項が感じられる香りであったこと、伝来時の特徴が別のある方の所有する香木の記録とも重なる等の情報を追うことが出来た時の香木を参考としました。
※ただし、前述の鵺の香木以外にも数々の伝蘭奢待が存在することから、それらを以って100%正倉院の蘭奢待と一致すると断定することは難しいことは留意する必要があると考えます。


余談3:正倉院の「蘭奢待(黄熟香)」についてよくある誤解

正倉院の蘭奢待については、大きさや重さなどのごく簡単な概要については、様々な書籍をはじめ、インターネット上でもすぐに調べることができます。

しかし、もう一歩踏み込んだ話を求めるとなると、様々な情報が氾濫する中から参考にすべき情報を拾い上げるのには一苦労もふた苦労する香木です。

今回展示された香木の鑑賞はもちろん、今後ご自身で香木や香文化の歴史について調べる際にも役立つよう、蘭奢待に関して書かれた文献によくある誤解などについても、この機会に簡単にまとめてご紹介しました。この章では、その一部をご紹介します。

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画像6 織田信長、足利義政の名が記された紙の付箋

蘭奢待に関する良くある誤解について、最も多い誤解といえば、この付箋のことではないでしょうか。

織田信長や足利義政の名前が書かれた紙の付箋は、明治期に貼られたものです。蘭奢待に関する文献の中には、名前の書かれた人物が切り取った当時に貼られたものと誤認されているケースがよく見受けられますが、後世の人々が推定して貼ったものである事に留意してご覧頂ければと思います。

また、正倉院といえば、聖武天皇ご遺愛の宝物を収蔵している事で知られていますが、そうはいっても、正倉院に保管されている全ての宝物が聖武天皇の所持品だったわけではありません

正倉院は北倉・中倉・南倉の3つに分かれています。そのうち、光明皇后の奉献による聖武天皇ご遺愛の宝物を中心に収められているのが北倉であった事から、北倉は扉を開けるには天皇の許可=勅許を得なければならない勅封として扱われるようになりました。

なお、南倉は昔から勅封だったわけではなく、元々は東大寺が管理していたものが、明治以降に勅封に変更となりました。現代では、三つ倉(北倉・中倉・南倉)の全てが勅封として管理されています。

聖武天皇ゆかりの宝物の他にも、様々な経緯で正倉院に保管される事になった宝物が保管されていますが、その全てが正倉院に保管されるまでどのような経緯を経てきたものか、詳細に分かっているわけではありません。正倉院に保管される事になるまでの来歴がよくわからない宝物の中には、蘭奢待(黄熟香)も含まれています

蘭奢待は確かに正倉院に保管されている香木ではありますが、だからと言って聖武天皇ご遺愛の品という訳ではない、という事です。

あとがき/謝辞

長文をお読み頂きありがとうございます。今回の香道体験会の開催レポートは2〜3日で公開するつもりが、蘭奢待に関する解説をあれもこれもと入れているうちに、気がつけば2万字近い論文のような長さになってしまい、これでは流石に読みにくかろうと大幅にカットする事に致しました。カットした大部分については、別の記事として公開するかもしれません。

今回の香道体験会における蘭奢待の解説にあたっては、今年亡くなられた恩師・松原睦先生の論文や、生前に先生と交わしたお話などを大いに参考にさせて頂きました。

松原先生は、香料史研究の大家・山田憲太郎先生の元で研鑽を積んだ後、晩年は香道の古文書の翻刻を多数手がけ、代表作である『香の文化史』(雄山閣出版)をはじめ、蘭奢待や香木・香道に関する膨大な資料を丹念に調査し、後の人々の良い手がかりとなる論文などを発表されました。

松原先生にはお香の古文書について多くのことを教えて頂いたほか、個別に意見交換や相談の機会を頂いたほか、大枝流芳などの記した御手前の再現協力や、先生の翻刻校正も少しお手伝いなどさせて頂きました。特に炷継香/焚合香の御手前などは「この人は本当に上手にやるんですよ」と度々お褒めに預かり、江戸期の香人と近年注目されている香道以外の分野の関係についての話題で大いに盛り上がり、楽しい学びのひと時をご一緒することが出来たのは、本当に幸いなことでした。

松原睦先生の著書『香の文化史』(雄山閣出版)は、初級者にもわかりやすく丁寧に香の文化や歴史の解説がされている良著です。教え子の贔屓目を抜きにして第三者的に見ても、香道関係の書籍の中ではトップクラスに入る優れた出来です。

解説が丁寧なだけでなく、読了後に興味を持った部分を自分で調査しやすいように出典もきちんと記載されている(香道関係の書籍では非常に珍しい事です……)ので、好奇心が旺盛な方や、香りや歴史・文化に興味がある方には大変おすすめの一冊です。

お香に関する本を探している方は是非お手にとってみてください(当日の香道体験会でも本著を推薦図書としてご紹介したところ、Amazonなどで探して早速お求めくださった方々もおられました)。

現状、まだまだ出版社側や書店に在庫もあるようです。もしAmazonで売り切れていた場合は、在庫補填を少し待つか、お近くの書店で取り寄せして購入される事をお勧めします。


改めまして、蘭奢待の一般公開に携わった方々の偉業に心より敬意を表しますと共に、ご参加の皆様、日頃よりお世話になっている方々、開催・告知や運営等にお力添えくださいました方々、そして天国で見守ってくださっている松原先生に、厚く御礼を申し上げます。


令和元年 吉日 madoka 拝

お問い合わせ先・参考文献・出典

<お問い合わせ先>
本記事および本香道体験会に関するお問い合わせ・ご意見ご感想等については、こちらのメールアドレス(kohdo@hotmail.com)宛にご送付ください。
<主要参考文献>
『香料・日本のにおい』山田憲太郎(法政大学出版)1978年
『香の文化史』松原睦(雄山閣出版)2012年
『古香徴説・古香徴説別集』翠川文子(香道双書3)私家版2010年
『蘭奢待・法隆寺沈水香と六十一種名香』松原睦(香道双書3)私家版2010年
『正倉院紀要』第22号 2000年(宮内庁正倉院事務所)
『調香師の手帖』中村祥二(朝日文庫)2008年
『織田信長 <天下人>の実像』 金子拓(講談社現代新書)2014年
『温湿度条件が嗅覚閾値及びにおいの主観評価に及ぼす影響に関する研究』
大阪大学 大学院工学研究科ホームページ
http://www.arch.eng.osaka-u.ac.jp/~labo4/research/nioi/nioi2.pdf
国立公文書館 公式サイト http://www.archives.go.jp/
宮内庁 公式ホームページ http://www.kunaicho.go.jp
木曽ヒノキについて - 林野庁/中部森林管理局 公式サイト
http://www.rinya.maff.go.jp/chubu/policy/business/sigoto/kiso-hinoki/hinoki01_01.html
京都府菓子卸商業組合 公式サイト http://kyotokashioroshi.jp/okashi01.html

<画像出典>
見出し画像及び画像1,4 出典 : https://twitter.com/es_perfume_/status/1198130839617359872
画像5,6 出典: 黄熟香(蘭奢待)|宮内庁ホームページhttp://shosoin.kunaicho.go.jp/ja-JP/Treasure?id=0000012162



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