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【ホラー企画参加】アパートから来る"あの子"

※本作品は、実体験に基づいた少しホラーなお話です。
 苦手な方はご注意ください。



小学生の頃、私は少し古い4階建てのマンションに住んでいた。
物件が古いため、4階建てといってもエレベータもオートロックも無く、
玄関扉まで誰でも来れる構造だった。
1階の半分は駐車場になっており、駐車場で近所の友達とよく遊んでいた。

小学3年生の夏ごろだったと思う。
私たちの遊びの輪に加わろうとする、知らない男の子が現れた。
彼は4歳くらいで、髪は猫っ毛で伸び放題のぼさぼさ、
目はくりくりで綺麗な顔立ちなのだが、痩せており、
何より不気味なほどに肌が真っ白だった。

小学3年生の駐車場遊びといえば、走り回ることがメインのケイドロなどで
遊んでいたのだが、いつの間にか彼はいた。
満面の笑みで走って加わっている。
見た目から推測する年齢的に、会話は可能だと思われるのだが、
叫び声や笑い声、簡単な擬音のみしか彼はしゃべらず
それが更に彼の不気味さを際立たせた。

彼の不気味さに耐えられず、私は友人とこっそり話し合い、
自宅から徒歩30秒の駐車場に移動した。

しかし、そこにも彼は付いてくる。

彼はずっと、その張り付けたような笑みを浮かべて、
真っ白な体躯で走ってくるのだ。

そしてその日以降、私たちが遊んでいると、彼は度々現れるようになった。

彼と遭遇するのが不気味で気持ち悪くて、私は自宅の駐車場で遊ぶことが
なくなった。それで彼に会うことはないと高をくくっていた。
しかしそれは甘かった。

なぜ知ったのかは覚えていないのだが、彼は私の住むマンションから
徒歩30秒のところにある、アパートに住んでいたのだ。
そのアパートもなんとも不気味で、築年数はおそらく40年以上、
奥まった日の当たらない場所に建っており、人が住んでいるのかも
謎だと思うような建物だった。

そんな近距離に住んでいるものだから、学校の終わる時間帯になると
マンションの駐車場に待ち伏せされるようになった。
そしてあの不気味な笑顔を張り付けて、ずっと付いて来るのだ。

文字通り、ずっと。

マンションの入り口で、集合ポストを確認している最中。
自室に向けて階段を上がっている最中。
自室のカギを開けている最中。

「なに?」「付いてこないで」

そんな言葉は彼には伝わらない。
あの不気味な笑顔を張り付けて、ただ、ずっと付いて来る。
流石に家の中に入られないようにドアを閉めるのだが、
ドアの隙間に手を挟んでこないか、そもそも家の前まで
付いてこられることがすごく気味が悪くて怖かった。

そのうち、私や同じマンションに住む同級生や保護者の間でも、"あの子"として彼の話題が上がるようになった。
皆が体験していることは同じで、「付いて来られる」こと、「返事が返ってこない」ことに気味の悪さを感じている様子だった。

そんな話を聞きつけて、同じクラスの男子が「俺が追い払ってやる」と声を上げた。当時、男子の間ではBB弾が入ったピストルのおもちゃを使った、
サバイバルゲームのような遊びが流行っていた。
そのピストルは空砲で打っても、バンバンという大きな音が出るため、
小さい子供はびっくりして逃げるのではないかという作戦だった。

正直"あの子"におびえ切っていた私と友人は全力でその男子の提案に乗っかり、早速放課後にピストル空砲作戦を決行することが決まった。

放課後。
男子を筆頭に、私と同じマンションに住む友人にも声をかけ、4~5人で
"あの子"が現れる駐車場に向かった。
すると、期待通りにあの子がこちらに笑顔で走ってきた。

ーーーパンッパンッ

早速男子が空砲を撃つ。

「ばんっ!ばんばんばん!」

"あの子"が少し怯えた表情で後退る。
指でピストルの形を作り、男子のピストルに応戦するように
ばんばんという擬音を発しながらも、男子が空砲を撃つたびに
どんどんアパートの方へと後退していった。

ーーーパンッパンッ
「ばんっ!ばんばんばん!」

私は"あの子"がアパートに撤退する様子を見て、勝利を確信していた。
これでもう、今後"あの子"に付きまとわれて怖い思いをすることも、
"あの子"を振り切るためにマンションの入り口から自室まで走って帰ることもなくなると思った。

ーーーパンッパンッ
「ばんっ!ばんばんばん!」

何度目かのやり取りの後、彼は完全にアパートへと消えていった。
そして私たちは、アパートに背を向け、勝利を分かち合…おうとした。

「今のピストルの音って、あんたたち?!」

びっくりして振り返ると、そこには"あの子"を後ろ手にかばった、
母親らしき女性が立っていた。
しかし、彼女も"あの子"同様、髪は伸び放題のぼさぼさ。色濃くついた
眼の下のくまと怒った形相から、異様な不気味さと怖さを醸し出していた。

「ねぇ、今のピストルの音って、あんたたち?」
「…は、はい。でも弾は入れてなくて空砲で」
「弾が入ってたらどうなってた!!!!!」

男子は何度も弾は抜いていること、ただ驚かせようとしただけだということを必死に説明してくれたが、彼女の言い分は1つだった。

「だーかーらー、弾が入ってたらどうなってたって言ってんの!!!!!」

半ばヒステリックに叫ばれ、今度は私たちが後ずさる。
全員で「すみませんでした」と頭を下げると、彼女は"あの子"を連れて
アパートに消えていった。
その姿を見送ると、私たちは安堵し、なんだか微妙な空気のまま解散となった。

今では母親の心配する気持ちは分かる。だが当時の私達には、
空砲ってちゃんと確認しているという思いと、あなたのお子さんのせいで
怖い思いをしているのにという、自分たちが怒られることに対する
理不尽さの方が勝っていた。

それ以来、"あの子"を見かけることはぱったりと無くなった。
私はその後、そのマンションに中学3年生まで住んでいたが、
結局彼を見かけることは1度もなかったのでなかろうか。
完全に言い切ることができないのは、「彼がランドセルをしょって
マンションの前を横切る場面」の映像が私の頭の片隅にあるからである。

それが私の脳がつくりだした妄想なのか、いつかに見た夢なのか、
それとも本物の記憶なのか、今の私には知る術がないが、
どこか本物の記憶ではないかという予感がしている。

なぜなら映像の中の"あの子"は、まったく笑っていなかったからだ。


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