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祖母のつくる"ちらし寿司と梅干しのおむすび"〈#おむすびの輪〉

もう一度食べたい。でも、もう二度と食べられないおむすび。

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わたしは子供の頃から「米派」だった。家族全員の朝食が食パンだったのに、ひとりごはんを突き通し、母をよく困らせていた。

そんなわたしのごはんのお供、それはいつも同じだった。そう、お供は祖母のつくった梅干し。

祖母は毎年梅干しを漬けていた。ちょっと大きめで酸味たっぷりの梅干し。口に入れるとどろっと酸っぱい液体が口いっぱいに広がる。

それが消えない内に、ほかほかごはんを口に放り込む。最高だ。

梅干しを食べ終えたあとは、種をガリッと噛む。中から小さな種子がでてきて、それは柔らかいナッツのようで美味しくて、それも食べていた。

祖母の家でごはんを一緒に食べる時、祖母はよくちらし寿司をつくってくれた。

さっぱり酢飯に錦糸卵、味の染みたしいたけ、赤いエビがその上に花を添える。祖母はそこに梅干しを添えていた。

わたしは祖母のちらし寿司と梅干しが大好きだった。今でも、ちらし寿司を食べる時は紅しょうがではなくて、梅干しだ。

ちらし寿司の夕食を終えると、祖母は残りのちらし寿司でおむすびをつくってくれた。

もちろん、そのおむすびの中には祖母のつくった梅干しの果肉が隠れている。

祖母のあたたかな優しい手によってむすばれる、ちらし寿司のおむすび。

祖母は丁寧にひとつひとつのおむすびをラップで包み、持たせてくれる。

「かおりちゃん、またおいで。」

わたしは祖母が大好きで、祖母のつくるちらし寿司や梅干しが大好きで、祖母のむすぶおむすびが大好きだった。

持ち帰ったおむすびは、翌日には食べてしまう。おむすびの中には祖母のあたたかな想いがたくさん詰まっているような気がして、それが消えてしまう前に食べてしまいたかった。

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わたしが進学でひとり県外に行くことが決まり、引っ越し前に祖母を訪れたとき、祖母はいつものちらし寿司に梅干しを添えてだしてくれた。

「かおりちゃん、ここはなくならんから。辛いことがあったら、いつでも帰っておいでや。かおりちゃんの帰る場所は、いつもここにあるんやけんね。」

祖母はわたしを包み込むように言った。その時のちらし寿司と梅干しは、いつもより塩っぱかった。

そして祖母はいつも通り、残りのちらし寿司に梅干しをそっと忍ばせ、おむすびをつくってくれた。

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おばあちゃん、かおりね、おっきくなったんよ。またちらし寿司に梅干し添えてだしてや。そんで、残ったやつ、おむすびにしてほしい。

おばあちゃん、かおりね、もいっかいおばあちゃんのおむすびが食べたいんよ。

おばあちゃん、会いたいよ。


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このエッセイは、ハスつかさんの#おむすびの輪「ゆるコンテスト」参加作品です。どのおむすびのことを書こう…と記憶をたぐり寄せ、いちばん食べたいおむすびのことを書くことにしました。

書いていると祖母との思い出が次々に蘇り、懐かしさと寂しさで涙がこぼれました。でも、こうやって祖母のことを思い出せたこと、ハスつかさんのおかげです。素敵な企画、ありがとうございました。