犯人は誰か。内定は誰か。「六人の嘘つきな大学生」(前半ネタバレなし・後半ネタバレあり)
「六人の嘘つきな大学生」を読みました。感想記事です。
後半はネタバレありますので、ご注意ください。
就活×ミステリー 次々と明らかになる大学生の裏の顔
成長著しいIT企業「スピラリンクス」の最終選考。最終に残った六人が内定に相応しい者を議論する中、六通の封筒が発見される。そこには六人それぞれの「罪」が告発されていた。犯人は誰か、究極の心理戦スタート(あらすじより)。
就活×ミステリーって合わなそうだなあ、どんな話なんだろうと思って読み始めたのがきっかけ。
就活ってかっちりしている印象があって、舞台にならなそうな気がしたんですよね。
最終選考に残った6人の大学生たちが、グループディスカッションを通して「誰が一番内定にふさわしいか?」を決める中で事件は起こります。それぞれの罪を告発する封筒が見つかるんですね、6人分。
自分の名前で宛名は書かれていますが、中身の告発は他人のもの。もちろん開けるまで誰のものかは分かりません。そして誰か一人が、この封筒を準備した犯人。
この本のメインはもちろん大学生たちがグループディスカッションをしている場面なんだけれど、緊迫感がすごかったです。途中途中で内定者を決める投票が入るので、それも相まってサバイバルゲームを見ている気分でした。
会社である「スピラリンクス」は最近成長が著しいベンチャー企業という設定。そしてこの6人は企業を受けた5000人以上の学生から選ばれた学生なんです。超優秀。
なのにどんどん罪が明らかになってくるものだから、途中から「コイツは何をやっちゃっているんだろう・・・」みたいな心境になって、ページをめくる手が止まらない。
会議室の扉に手をかける。ノブを回せば扉が開く――そんな当たり前のことにどこか驚きながら、会議質の外へと一歩踏み出す。
この文章みたいな心境。本を閉じれば終わるのだけれど、ついつい読み進めてしまいましたし、『あっ、当たり前だけど密室じゃなかったんだ』と主人公と一緒に脱力しながら思いました。
「就活って本当に機能してるのか?」
ある登場人物の言葉ですが、私も読み終わった後に思いました。それと、もう一つ。
『就活』ってミステリーにぴったりな舞台設定でした!!
そう考えを改めたのでした。とても面白かったです!!
さて、ここからは【ネタバレあり】ですのでご注意。
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それでは、いいですか?
読者は文字の情報から判断しないといけない面接官だった
いやー、見事に騙された!「すました顔して!この悪い女!」と普通に思っていました笑
これがいいんですよね、ミステリー小説は。
舞台は就活。そして彼らの罪という一面を、「封筒」で表したこと。この設定からすでに騙しにかかっているとふみました!笑
だって、読み始めてすぐ「就活中の大学生6人」出てくるんですよ?(当たり前だ) 誰が誰かもしばらくは判別つかない。
えーと、袴田くんって誰だったっけ?そう思いながら読み進めているうちに、一人ずつ罪が明らかになっていった。
「いじめで同級生死なせた奴」「キャバで働いていた子」など、いつの間にかカテゴライズしてしまっているんですね。この人たちの特徴が、完全に封筒の中身になっていた。
「封筒」という断片的な情報から進んでいった就活を、「本に書かれた文字」という断片的な情報で読み進めていった読者。ここがリンクしているんですよね。読者はある意味、第三者として存在した面接官でもあった。
途中で挟まるインタビュー会話も、「時間が経ってもやっぱりクズだな」と思いながら読んでいたもの。どうしても映像と違ってはっきりした事実がないから、自然と文字を読んで頭の中で補完してしまっていました。
虚構の就活と現実の就活がリンクする
そもそも小説に出てくる登場人物って、キャラクター設定がありますよね。「キャラ立ち」とかいう言葉もあるくらい。
でも、実際生きている私たちはもっと複雑で。陽気な一面もあれば、一人になりたいときもある。誰かにとってはすごい「いい人」だけれど、誰かにとっては「悪い人」。
そんな当たり前のことを、ちょっと誇張して示したのがこの小説だと思いました。
実際の就活も、「履歴書」「面接」といった断片的な情報から進んでいきます。
学生はいい会社に入るために嘘八百を並べる。一方の人事だって会社の悪い面は説明せずに嘘を固めて学生をほいほい引き寄せる。
断片的な情報は、誰だってよく見せたい。だから嘘もつく。学生側も会社側も、ある程度の嘘はあると承知した上で進んでいく、それが就活システム。
ある意味封筒なんて出てこなかった平和なディスカッションだったとしても、きっと「六人の嘘つきな大学生」という題名は変わらなかったかもしれません。
けれど、就活を乗り越えて社会人になり、進んでいるんですよね。
最後に出てきた女子大生の就活からも思いましたが、作者は就活に疑問を呈しながらも、もはやこの欠陥的な就活システムを愛しているのではと感じたり・・・。だってそうじゃないとこの小説は書けないよ。
グループディスカッション中に、就活生の罪が書かれた封筒が届くという現実感のない設定でありながら、やけに実際の就活とリンクした部分もあった、現実的なお話でした。
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