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ある夏のワンシーン 【掌編】

夕焼けに溶け込むオレは座り込んでうつむいてばかりだった。
リカコはオレの気も知らないでぶっきらぼうに言う。
「なによ! 黄昏ちゃって」
「ルカにフラれたくらいでさあ。元気出しなさいよ」
遠くを列車が走っていく。それに乗るように夏休みに入っていけるのか? 向日葵は夕日の方向を向いてるけど、オレは下を向くことしかできない。リカコは隣のクラスでオレの部活のバスケ部のマネージャー。ルカは・・・クラスメイト。
夕日が沈んでいく。
「さっ、帰ろっか。あまり思いつめるなよ?」
オレを励まそうとするリカコ。
「ああ、わかってんよ」

その日の夜は長い夜だった。ノートに書かれたサヨナラの文字が、傷を少しはやわらげてくれた。

彼女はオレを好きではなかった。

(ルカはわたしじゃないと思ったの。わたしじゃないって。キミが好きなのは。キミを好きなのは。なんかかなわないなあって思っちゃって。リカコだよ。きっと。キミの好きなのは。ルカにキミは似合わない)

あの時のルカの言葉がリフレインする。
(そっか。フラれたんだ。オレは・・・)
「そんなはいそうですかみたいにすぐにリカコに鞍替えできねえよ」
なかなか寝つけなかった。初めて女の子にフラれた。そのことで頭がいっぱいだった。
次の日ちゃんと学校には行った。学校ではなるべくルカと目を合わせないようにした。もう別の世界の人のように感じた。

放課後ボールの弾む音が体育館に響きわたる。
「暗いぞ? 少年」
「半分リカコのせいだからな」
「はあ? どうしてそうなるのさ」
まだルカのことを引きずっているけど、とにかく歩き出す。前に進むしかない。

「ボール持ったら走る!」
リカコの声が耳に痛い。オレを気遣ってくれてるのはありがたいが、ちょっとウザい。
オレは何もかも忘れようとしてとにかく走った。どこに向かってるのか行き先もわからずじまいだった。
夏はこれからだ。






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