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読書記録『「山奥ニート」やってます。』

世の中が大きく変わって4年目。
「適者生存」という言葉がありますが、部屋に閉じこもり誰にも会わなくても過ごしていける人間、つまりニートこそが今の世の中に最も適しているのでは、と話題になったのはいつ頃だったでしょうね。

というわけで、今回の本はこちら。

「山奥ニート」やってます。
(石井あらた著/光文社/2020.6)

ひきこもりとなって大学を中退し、ネットを通じて知り合ったニート仲間と2014年から和歌山の山奥に移住。以来、駅から車で2時間の限界集落に暮らしている。月の生活費は1万8000円。収入源は紀州梅の収穫や草刈りのお駄賃など。インターネットさえあれば、買い物も娯楽も問題なし。リモートの可能性をフル活用し、「なるべく働かず、面倒くさい人間関係から離れて生きていく」を実現したニートが綴る5年間の記録。

(honto商品説明より引用)

今の世に最もふさわしい生き方かもしれない生活を、感染症が流行る前から実施していた山奥ニートたちの記録です。2014年からということは、今年で9年目ですね。

昔なにかのドキュメンタリーで見たなぁ、今どうなっているんだろうと検索してみたところ、赤ちゃんが増えてました。山奥ニートが赤ちゃん!?

驚きましたが、著書の内容を思い出して落ち着きました。

 山奥ニートは企画やアートじゃありません。
 だから何かの宣伝だったり、何かのメッセージがあるわけじゃないです。
 これはただの生活。
 ごく凡庸な、人間として当たり前の営み。

P.5-6「はじめに」より引用

山奥だろうとどこだろうと、人間が生きて暮らしているのだから、結婚も出産も普通にありえることです。もちろん、しないのも普通です。「ニートだから結婚も出産もできない」というのは違うんだな、と自分の中で浮き彫りになった偏見を反省しました。

この本の中で特に印象に残ったのは、まだ山奥にはいなかったけどニートだった著者が、東日本大震災のボランティアで福島に行ったときのこと。

 僕がニートだと応えると、その人はやっぱりねと言った。しかし、馬鹿にした感じは一切なかった。
 やっぱりとはどういうことか聞いたら、ボランティアに来る若い人の多くはニートやひきこもりだからだと教えてくれた。
「ニートはひきこもりの人は、大きな力を溜め込んでいる。でもそれを活かせる機会がない。でもこういう非常時では、それが何より助かる」

P.168 第3章「山奥ニートのこれまで」より引用

毎日会社で働いて社会貢献している人々は間違いなく素晴らしいです。でも、だからその人達と比較してニートやひきこもりの人はだめだとか、価値がないとか、そういうことではありません。逆に会社がなくなったり、社会構造自体が変わって、今までバリバリ働いていた人たちが何もできなくなったとき、その人に価値がなくなったわけでもありません。

人間にはそのときそのときにふさわしい環境があり、力が発揮できる居場所があるのだと、山奥ニートから改めて教わったのでした。

環境といえば、こちらも興味深かったです。

 人が変わる方法は3種類しかない、と聞いたことがある。
「時間配分を変える」「住む場所を変える」「付き合う人を変える」。

 山奥に来たら、その全部が変わる。(中略)
 変わるというより順応すると言ったほうが正確かもしれない。
 これは山奥の魔法で、一時的なものだ。
 僕だってここを離れて実家に戻った途端に、ひきこもりだったころの卑屈な性格に戻ってしまう。

P.212-213 第4章「山奥ニートたち」より抜粋

冒頭で適者生存という言葉を使いましたが、あくまでこれは結果論です。たまたまそのときに居た環境がその人にとって過ごしやすいものだったから生き延びられた、というだけの話。

山奥ニートになれば人生が変わるのではなく、ニートの中でも山奥が過ごしやすい人たちが居着いて、生活を続けている。この本に描かれているのはそれだけです。

ちなみに私は昔、適応障害と診断されたことがあります。適応障害がどんなものかをざっくり説明すると、環境に適応できないために心身に悪い影響が出ている状態を指す言葉です。当時勤めていた会社を辞めたらさくっと治りました。

自分が弱いからだめなんだ、何も出来ない人間だと思っている人は、環境を変えたら嘘みたいに治るかもしれません。そのきっかけの一つとして、こちらの本を読んでみたらいかがでしょうか。

それでは今日はこの辺で。
次の読書記録で会いましょう。

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