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どうぞ召し上がれ|短編小説

 飲めば願い事が一つ叶う代わりに、大切なものの記憶を失ってしまうスープがあります。あなたはそれを飲みますか? また、仮に飲んだとしたら、それは一体どんな味がするのでしょうか?
「願い事によるんじゃないの?」
「すーちゃんすっごい現実的」
 暇潰しによく出されるIF話を唐突に持ち出した女は、おかしそうに笑っている。その手元では手際よく料理の材料がまな板の上で刻まれていた。招かれた立場であるもう一方の女は、台所の真向かい、台所にくっついたカウンターテーブルに肘をついて、作業を何ともなしに眺めながら言葉を繋げていく。
「願い事と大切なものがリンクしてたら、願った時点でもう叶わなくなる可能性だってあるじゃん。『好きな人と結ばれたい』って願って叶った途端に好きな人のこと忘れたら元も子もないでしょ。あとスープの味はわかんない。スープの味によって効果が変わるとかある?」
「特に考えてないけど、恋のお願い事だったら私なら甘酸っぱい気がするな」
「初恋の味?」
「そうそう」
 刻んだ野菜を鍋に入れながら台所の女が相槌を打つ。昔どこかで聞いた『初恋は檸檬の味』というやつか。いや、カルピスだったかもしれない。檸檬味のスープはともかく、カルピス味のスープってもはやただのカルピスな気がするが。
「じゃあ、ほしいのが才能だったら? 絵が上手く描けるようにとか」
「謎のスープに頼るほど腕を欲してる人なら、最終的に絵について忘れちゃわない?」
「すーちゃんは大切なものと願い事がいっつもセットね」
 まな板の上に次の材料が置かれて、先ほどと同様に刻まれていく。皮をむいたり、種をのぞいたり、食べやすいように調理しやすいように。
「あんたはどうなのよ」
「飲むよ」
 手元はよどみなく、言葉は端的だった。あっという間に二人分の材料が刻まれて、同じ鍋に入れられる。台所の女は一度手をふくと、何かのボトルを手に取った。不透明な茶色の瓶の中にはなみなみと液体が詰まっているようだったが、カウンターの女の位置からは鍋の中に瓶の口が隠れてしまって、なみなみと注がれていく液体の正体を知ることは出来ない。
「そのためのスープだもの。味も気になるしね」
 カチッとコンロのスイッチが入れられる音とほぼ同時に鍋の下で火が付く。最初こそ強火だった火加減を調節して、台所の女は鍋の蓋をしめる。そして一部始終を見守り続けたカウンターの女に再度問いかけた。
「どんな味だと思う?」
 台所では、スープが煮え始めていた。

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即興小説リメイク作品(お題:禁断の汁 制限時間:30分)
リメイク前初出 2020/03/31
この作品は(pixiv/小説家になろう/アルファポリス/カクヨム)にも掲載しています。

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