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神崎翼の創作小説

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投稿した創作小説をまとめてます。短編多め。同名義で「pixiv/小説家になろう/アルファポリス」にも投稿しています。
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2020年6月の記事一覧

理想のお墓|短編小説

理想のお墓|短編小説

 花壇の中央に、優美な桜の木が一本植わっている。女性の腕程の太さもない、けれどしなやかな若木だ。その桜を囲うように、花壇には無数の円柱型の石材が埋められている。手のひらほどの大きさの、御影石で出来た円柱だ。大半は花壇の土の中に、指先程度だけ地面の中から顔を出して、綺麗に切り取られた円柱の表面が太陽を反射して白く光っていた。
 御影石――――つまり、墓石だ。整然と桜の周りに植えられた墓石のいくつかに

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破天荒な貯金|短編小説

破天荒な貯金|短編小説

 真面目になるのが遅すぎたと思う。その自覚があった。
 五つ年の離れた姉が優秀だったのが発端だったとは思う。姉にしてみたら言いがかりだろう。裕福とは言い難い家のためにコツコツ勉強をして学費のかからない国立大学へと進学した姉は、決して天才肌ではない。姉は家にいるとき、いつも部屋に引き籠っていた。ある日、たまたま姉の部屋の扉が少し開いていたのでそっとのぞくと、机に齧り付くような勢いで何かを書き付けてい

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このあと坂をダッシュして会社に戻った|短編小説

このあと坂をダッシュして会社に戻った|短編小説

 昔々、それこそ幼稚園ぐらいだったろうか。おむすびが転がる絵本を読んだような記憶がおぼろげながらある。もしかしたら歌だったかもしれない。おむすびころりん、すっとんとん。そんなフレーズぐらいしか覚えていないけれど。
 そんなあやふやにもほどがある幼少期の思い出と、まさか全く同じことをしでかしてしまうなど、三十分前の私には想像も出来なかっただろう。高台にある会社から一番近いコンビニ近く。黒褐色のアスフ

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