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短編集

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掌編というには少し長めの作品集。
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#サクッと読める読み物

【短篇】深夜のタクシー

【短篇】深夜のタクシー

 都心の繁華なところで会社の飲み会があり、二次会、三次会とあっという間に時は流れて、その帰り。近場の者は終電に間に合うが、他は方向別にタクシーに分乗する。

 高層ビル群を抜けて、街道を郊外へと向かうタクシーから客が一人減り、二人減り、ようやく一人切りになった二宮は、大きくため息をついた。前を走るタクシーのテールランプが、酔眼にぼんやり滲んでいる。心底疲れていた。仕事に脳が疲れ、人付き合いに心が疲

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【短編】待合室の男

【短編】待合室の男

 駅の待合室で暮らしている男がいる。いや、正確には暮らしているとは言えないかもしれないけれど、滞在していることは確かである。

 家具(椅子)付き冷暖房完備で家賃0円、自販機まで三歩だから、悪くはないかもしれない。入場の度にお金はかかるし、終電と始発の間には駅のシャッターが閉まるから、外に出なければならないけれど。

 平凡なサラリーマンの片桐は、通勤の行き帰りに、いつしか待合室の男を外側から観察

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